|はじめに|
 150年前,写真術が発明されたとき,アラゴーをはじめとする天文学者たちは,ダゲールやホイップルなどの写真技術家の積極的な協力を得て,これを天体観測に応用してきました.また天文学者は写真技術の向上に力をつくしました.例えばイギリスの有名な天文学者であるジョン・ハーシェルが発見した定着剤,ハイボは現在でも使われています.現在の天文学の発展が写真術の進歩によるところが多いと同様に,写真術の進歩も天文学と無縁ではありません.
 現在,写真技術は向上し,シャッターボタンを押しさえすれば誰にでも写せる“バカチョン”カメラが世にでています.フィルムの感度も高くなり,かなり暗いところでもカラー写真が写せて,しかも1日待たずに美しいカラープリントが見られるほどになっています.
 特殊な設備がなければ写せなかった天体写真が,比較的たやすく誰にでも写せる時代になっています.月刊天文雑誌が作品の発表の場を提供していることも,天体写真の普及をうながしているのでしょう.
 これらの天体写真は大自然の貴重な記録であって,その中に数多くの情報が秘められています.これらの情報をよい状態で記録しておけば,1枚の写真が宇宙科学の進展のために役立つことになります.時の流れと共に変化している天体現象ですから,とり直しがききません.アマチュアの写した写真の中に貴重な天体現象が記録されている可能性が大なのです.
 本書は科学的に有効に利用されるための天体写真の撮影法をまとめたものです.それぞれの分野の第1線で活躍しておられる方々にご執筆頂けたことを読者の皆さんと共に喜びたいと思います.
 恒星社が本邦最初の天体写真の指導書として京大花山天文台の故中村要氏による「天体写真術」を刊行してから,半世紀もたちました.同社の天体観測シリーズに富田の「天体写真の撮影」が加わってからでも16年になります.その後類書がたくさん発行されていますが,本書は新しい時代の“天体写真術”の決定版であると自負しています.本シリーズの第10巻「天体画像」を併せてごらんください.この両書によってわが国の天体写真の内容の益々の向上を願うものです.末筆になりましたが,分担執筆をして頂いた方々,写真など資料提供の皆さんに厚くお礼申しあげます.
 アマチュアの撮影した天体写真を研究用に積極的に採用した元東京天文台長故広瀬秀雄先生,良い天文書を多数刊行することによって,日本の天文学の普及に大きな力となっている恒星社の創立者故土居客郎氏,この2人の霊前に本書を捧げたいと思います.
1985年6月1日写真の日
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