|はじめに|
 近年科学史の研究が盛んとなり多くの著書,論文が世にでることとなったことは,この方面に興味を持つ筆者にとっては誠に喜ばしいことであるが,日本の天文学史に関する著述に至っては,「明治前日本天文学史」を除いては余り見当たらないようである。
 筆者は昭和18年に「天文暦学史上に於ける間重富とその一家」(本文では間重富と略す)を,戦時中のこととて未完のまま,出版者の要望により刊行したが,なにしろ急のことで未校合のため間違もあって遺憾に堪えず,機あらばさらに日本天文学史まで拡げて,稿を改めたいと考えていた。以来本業の余暇を利用して資料の収集に心がけ,各地を探訪して折にふれて,収拾のメモとして書いた未刊,既刊の報告や小論がたまってかなりの量となったが,中々纏まった総合的研究としての日本天文学史を書くまでには至らず,匣中に眠ったままになっている。しかしいつまでも,このままにしておいては,いつの日にか世に出ることがあろうか,筆者も本年は傘寿に達し,余命も判らない今日,このままでは折角の努力も無になるのを恐れ,世の同好の士にも幾分ともお役に立ち,また余命あらばなお筆者の今後の研究のための足がかりとして,一応纏めておこうと思い立って,書留めた稿の中から拾集して成ったのが本書である。そのため本書には未知の,或は未刊の資料が多く引用されているが,これは今後の研究者の参考に確実な資料を供するため,また一つには引用文は読者をして古人の謦咳に接するよい機会になるであろうと考えたからである。
 以上のような理由で本書は内容において,精疎繁簡,重複があり,脱落があり,字句に不統一のところがあり,通史としては誠に読みづらいものとなったが,後学の史に幾分でも参考になれば幸いである。
 探索すればまだまだ隠れた資料は多く残されている。余力があればさらに,これら資料により,いつの日にか増補訂正したいものと考える次第である。諸子の御教示を賜らば幸いである。
 本書を著わすに際し,資料収集のため各地の公私の資料所蔵者を探訪し,多大の御厄介になった。また先学の著書を参考にさせて戴いたが,ここに一々名を掲げることは省かせて戴くが,厚く御礼申上げる次第である。
 
ウィンドウを閉じる