|はじめに|

 改訂版 序
 1996年に刊行された「魚病学概論」は包括的に,しかもコンパクトに書かれた魚病学の教科書,入門書として,多くの学生,研究者に使われてきた.早いもので,初版の出版から12年が経過した.その間にはいくつかの病原体の分類体系や学名に変更が生じた.養殖魚,天然魚を問わず,従来未知の病気の流行もあった.その背景には,以前にも増して外国産の魚介類の種苗に依存するようになった日本の養殖の姿がある.輸入種苗に伴って未知の病原体が侵入していることも明らかにされた.こうした実態を受けて,水産動物の防疫体制の整備が進められた.その結果,外国からの病原体の侵入を防止するため,種苗の輸入に対して許可制度が盛り込まれ,国内での病原体の蔓延を防止するため,新たに持続的養殖生産確保法が制定されるに至った.さらに水産防疫に関する専門家会議が組織され,防疫体制が徐々に整備されてきた.一方,研究面では分子生物学の発展に伴い,分子レベルで病気の理解が進むと同時に,診断にも日常的に遺伝子技術が使われるようになり,魚病の研究や診断の幅が格段に広がった.分子生物学は病原体の系統や分類体系の見直しをも促すことになった.さらに当時は2種類のみであったワクチンも11種類に増え,接種方法も浸漬法に加えて経口投与法と注射法が加わり,多価ワクチンも市販されるようになった.ワクチンの効果は目覚しく,今後の魚病対策の方向が治療から予防へと重心を移していくようにみえる.
 以上のように,この12年の間に魚病の発生状況,それに対応した研究や行政等に起きた変化はまことに大きいものがある.魚病学の研究の深化や真菌や原虫の系統の大幅見直しなどによって,「魚病学概論」の記述に修正を要する部分が出てきたのは致し方ないことである.こうした変化に対応した改訂版が求められているという状況に鑑みて,昨年来,室賀清邦先生とともに「改訂・魚病学概論」の作成に向けた準備を進めてきた.
(途中省略)
 改訂版では,内容的には大きく変わった部分もあるが,スタイルは概ね旧版の形を踏襲し,読みやすい本を目指した.本改訂版が旧版にも増して利用されることを願ってやまない.(以下省略)
    2008年3月
                                               編者を代表して 小 川 和 夫

 

 1965 年(昭和 40 年),当時東京大学農学部水産学科の学生( 4 年生)であった私は東京水産大学の保科利一教授と私の指導教官であった江草周三助教授のお二人で担当されていた科目「魚病学」を受講した.
 どんな内容であったか,正直なところあまりよく憶えていないが,保科先生が Aeromonas punctata(現在の A. hydrophila)の性状を詳しく説明され,黒板に書かれた糖分解の詳細な結果を意味もわからずに必死にノートに書き写したことを思い出す.その頃,魚病学に関する教科書はなく,丁度 1965 年に出版された「養魚学」(恒星社厚生閣)の中にある「魚病」の章(著者:保科利一,四竈安正,江草周三)が唯一の参考書といえるものであった.古い方はご存知かと思うが,1937 年(昭和 12 年)に既に「魚病学」(藤田経信,厚生閣)なる本が出されていたが,寄生虫関係はともかく,私が専攻した細菌性疾病に関してはその当時既にほとんど役に立たない内容であった.
 あれから丁度 30 年が経過し,1966 年に発足した魚病研究談話会は1980年に日本魚病学会となり,わが国における魚病研究は大いに発展してきた.この間に「魚の感染症」(江草周三,1978),「魚の病理組織学」(江草周三ら,1979),「魚病学[感染症・寄生虫病篇]」(江草周三編,1983,1988)などいくつかの優れた本が出版されてきた.
 現在,私は大学の 3 年生を対象に「水族病理学」なる講義を担当している.自分が分担執筆していることもあり「魚病学[感染症・寄生虫病篇]」を一応教科書のような形で使用しているが,いささか詳しすぎ,また本のタイトルからもわかるように魚病学全般をカバーするものではなく,いつも自分なりのプリントを用意し講義に臨んできた.そして常々,魚病学を学ぶ初心者により適した教科書があればと感じていた.2 年位前から日本魚病学会主催で一般社会人を対象とした魚病講習会が開かれているが,そのお世話をした時に魚病学全般を概観できるような適当な教科書の必要性を改めて痛感した.
 このような状況を踏まえ,江草周三先生と新しい教科書作りを企画したところ,それぞれの分野の第一線で活躍しておられる専門家の方々に快く分担執筆をお引き受けいただき,また恒星社厚生閣の佐竹久雄社長のご賛同を得ることができ,本書が誕生する運びとなったわけである.本書を作るにあたり,それぞれの分野における主要な問題点を集約するとともに,病原体や病気の種類については主要なものを網羅した一覧表を作成し資料として使いやすいようにし,更に各論としてそれぞれの分野での代表的な病気をいくつか選び,平易に解説することにより理解を深めるよう努めた.
 その結果,コンパクトで使いやすい教科書ができたと自負しているが,無論欠点も多々あるものと思われる.読者の皆様の忌憚ないご批判をいただきながら,将来より良いものへと変えて行きたいと考えている.
 本書に接した学生あるいは異なる分野の研究者が一人でも多く魚病学に興味をもち,将来魚病研究に携わっていただけることを期待している.
(以下省略)
                1995年12月 室 賀 清 邦

 
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