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浮遊性微小生物の異常な大増殖による海域の変色現象は赤潮と呼ばれ、湖の発生記録はかなり古くからある。この記録によると、赤潮はおおむね太平洋側で、東京湾以西にある特定の内湾、沿岸海域に生じており、各海域によって赤潮の起こる時期と種類がほぼ一定している傾向があるといわれている。しかし、必ずしも毎年恒常的に発生していたわけではなく、発生範囲も局所的で小規模なものが多かったようである。
ところが、近年の赤潮は、季節と海域にかかわりなく多発して慢性化し、大規模化する傾向が顕著になってきた。特に昭和45年の夏に、西日本各地の沿岸や内湾に発生した赤潮は養殖生物や有用底生生物に大きな被害を与えた。その後、47年に播磨灘に発生したホルネリア赤潮は、52年以降、毎年継続して広域的に発生し、ハマチなどの養殖魚類に甚大な被害を与え、かつ天然魚のへい死も引き起こすにいたり、赤潮の発生機構の解明と対策の確立は緊急の課題となってきた。
自然界の植物プランクトンは通常、多くの種類が混じり合っているが、赤潮といわれる状態では、さいぼうみつどがいちぢるしく増大する半面、種類数が減少してくる。それでも珪藻類の赤潮の場合は、数種類が混じり合っていることが多いが、水産被害の大きい鞭毛藻類の赤潮では、単一種組成で濃密な集団を形成することがしばしばである。このために、赤潮発生機構としては、低密度の複合群の中から特定の種類が優先して、ごく短時間のうちに単一種の濃密な集団を作る過程について、種々の面から検討が行われてきた。このうち、環境面からの調査研究では、降水量、日射量、気温、風などの気象条件や、水温、塩分、栄養塩の種類、濃度と赤潮発生の相互関係を求めることが試みられ、生物学的な観点からは、原因プランクトンの生活環や栄養繁殖生理などについて研究が進められてきた。
これらの研究を通して、赤潮の発生機構が逐次明らかになってきた。とりわけ、栄養生理的な分野では、赤潮の原因となる生物種のそれぞれについて、栄養要求の通性的な部分と特異な部分が培養実験によって詳細に攻究され、また、現場研究においても、増殖促進物質、あるいは重樹物質の本体と由来、供給源などに関する知見も加わってきた。更に、生態学的な側面では、赤潮形成種が独占排他的に個体数を増大させる過程について、シストからの発生、光条件、種間競争、捕食などの諸条件と群形成の関係が多面的に吟味されてきた。
一方、赤潮が形成される場合には、増殖機構のほかに、漏洩をできるだけ小さくする機構、あるいは集積を助長する機構が必要であるとされ、この機構については、赤潮生物を浮遊性の粒状物質と考えて、その分布を環境水の物理的現象と関連して解析する試みや、赤潮生物自身の生物学的な性質として集積する過程について種々の検討が行われている。
赤潮対策については、生態的な立場と利水的な立場ととでの研究の進め方が考えられる。このうち、前者については物質循環の視点から、莫大な量の第一次生産が有用生物の生産に機能しない点に問題があるので、その発生機構に関与して、これを生物生産の系の中に有機的に汲み込むための対策研究が考えられるが、具体的にはまだ着手されていない。現在は、利水面における被害が大きいことから、予防法や駆除法などの対策検討が行われており、この中では、発生機構にもとづく対策というよりも、むしろ技術的な見地からの検討が積極的に進められている。しかし、ごく最近、有害性の強いホルネリア赤潮のような特定種に対しては、赤潮の発生機構や魚介類へい死の原因や条件を解明し、それによって対策を策定しようとする研究も台頭してきた。
対策の具体的な例として、予防面では、赤潮が多くの場合、陸上からの負荷量の増加に伴う水域の富栄養化の進行と一致して発生していることから、海域において保つべき窒素、リン濃度の設定に問題を残しながらも、行政的な処置として窒素、リンの削減計画や、これまでに蓄積した栄養物質の除去計画が進められている。また、赤潮の直接的な駆除技術についても幾つかの方法があり、現在はまだ試験段階であるが、この中の有効な方法の幾つかは実用化へ向けて技術開発が進められている。
半面、赤潮の発生は現況では抵抗しがたいものとして、その被害をできるだけ回避、軽減するために、事前に発生を予察する方法の研究も行われている。しかし、いつ、どこに、どんな種類が、どんな規模で発生し、どのくらい続くかといったことを正確に予知することは、発生要因の中に多くの不確定要素を含むことから、ほとんど不可能に近い。現場調査では、赤潮の発生と環境の問題が因果関係としてよりも相関関係の強弱として論議されていることもあって、発生の前駆的現象をいかに的確に把握するかという点に努力が向けられている。
赤潮に関しては、以上のような多面的な研究を通して、発生機構や魚介類に対する加害機構と防止対策、あるいは赤潮生物の分類や生理生態学的特性などの知見が次第に蓄積してきた。
最近の赤潮では、有毒、あるいは有害プランクトンによる被害が深刻であることからして、個別の種類毎に発生機構と防止対策を考えることが必要となってきており、生物種ぬきでは赤潮の問題が論議しがたくなってきた。このような基本的な問題は残るが、漁業環境保全問題特別委員会としては、時代的な必要性から、赤潮問題の第一段階として、発生機構と対策に重点をおいて、これまでの成果を総合的に討議集約して、漁業環境の保全に資するようシンポジウムを企画した。
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