|はじめに|

 「海が汚れている」といわれて久しい.わが国では,第2次世界大戦後,経済の復興を優先したがゆえに,急速な人口増に伴う生活排水の増加が海の微生物による浄化能の限界を遥に越え,富栄養化が進行した.その結果,1960年代後半から赤潮が頻発し,甚大な漁業被害を被るに至った.また,それ以前から海でも深刻な問題が湧出していた.それは,様々な製造業の工場から排出された廃水である.水俣病の原因となる有機水銀をはじめ,イタイイタイ病のカドミウムなどの重金属汚染,家庭排水が主な合成洗剤問題,タンカーからの石油流出,さらには,今日「環境ホルモン(内分泌撹乱物質)」と称される農薬のDDTや工業製品のPCBなどとそれらの副産物であるダイオキシン類といった人工有機化合物による被害が深刻となり,経済よりも環境重視の傾向が世界的な広がりを示すまでになった.

 このような深刻な海の環境に対して,海の生物生産の基幹を成す海洋微生物(主に,海洋細菌と微細藻類)は如何なる役割を担い,対処しているのか.その質問に対して,日常的に海洋微生物に親しんでいる我々は,解りやすい回答をする責任がある.また,そのことによって,海の物質の動きとそこに関わる海洋微生物の挙動,さらには,人為的に微生物の作用を拡大した環境修復(バイオレメディエーション)などについて一般の理解が深められ,この分野の発展に大いに寄与するものと期待される.その手段の1つとして,この度,大学生を対象としたテキストを作成し,彼らの理解を深めることからスタートした. また,微生物名の表示は,しばしば,本書を読むに当たって難解との誤解を招く恐れが有ったが,属から種レベルで考えなければならない箇所が多く,結局,学名の後にカナまたは和名をいれ,カナ表示はなるべく英語読みとした.

 なお,本書は,2000年春に出版した「海洋環境アセスメントのための微生物実験法」(恒星社厚生閣)と対を成すように執筆されたものである.さらに私見を挟むなら,2001年に編者の1人によって執筆された「海洋微生物の分子生態学入門」(培風館)は多少の偏見はあるが,併用されることにより,本書の理解の助けになるだろう. (以下省略)

編者 石田祐三郎    杉田 治男

 
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