ブラックバスを退治する

シナイモツゴ郷の会からのメッセージ

ブラックバスを退治する

ブラックバス問題解決の道を探る

著者 細谷 和海
高橋 清孝
ジャンル 海洋学・環境科学 > 環境
出版年月日 2006/11/25
ISBN 9784769910497
判型・ページ数 B5・168ページ
定価 本体3,400円+税
在庫 在庫あり

この本に関するお問い合わせ・感想

ブラックバス駆除の最新指南書
なぜブラックバスは悪いのか,法案の成り立ち,被害状況,バスの被害で生存の危機にある絶滅危惧種の実態について多くの学識経験者が詳述.様々なバス駆除方法の紹介,注目の駆除方法『伊豆沼方式』を開発し,市民による駆除と在来魚の復元に成功した「シナイモツゴ郷の会」の事例を紹介.人の集め方から申請方法や書類も掲載・説明,駆除後の自然再生までの提言をまとめた.バス駆除はこの本から始まる.
 尚,この本で紹介している「シナイモツゴ郷の会」は農水省の 「平成18年度田園自然再生活動コンクール」 にて農林水産大臣賞(一等)を獲得いたしました.


はじめに

 外来種の侵入は生物多様性にとって最大の脅威と言われる.わが国でもとうとうブラックバスが特定外来種に指定された.特定外来種は,飼うことはもとより,他地域に放流したり運搬したりすることが禁止され,違反すると厳しく罰せられる.もうこれ以上日本の水域を侵略させないという方向性が示された.日本に移殖されたブラックバスは,湖沼や河川の止水域に生息するオオクチバス,それに河川の流水域に生息するコクチバスに大別される.さらに,オオクチバスはノーザンバスとフロリダバスの2亜種に細分され,現在,日本各地で交雑が進行している.このようにさまざまなバスが日本に持ち込まれた理由は,バス釣り師たちが日本中の水域でより大型のバスを釣りたいという要求を満たすため,いく度となくアメリカから導入したからである.いずれも強い魚食性を示し,日本在来の淡水魚を地域的に絶滅させている.

 ブラックバス被害の凄まじさを見せつけられたのは2000年の宮城県内のため池と伊豆沼においてである.1993~1996年の魚類調査ではほとんどのため池でヌカエビ,スジエビ,モツゴ類やタナゴ類が多量に見られ,ラムサール条約指定登録地の伊豆沼では驚くほど多量のゼニタナゴとその他コイ科魚類が生息していた.2000年に再び調査すると一転してほとんどのため池でモンドリに入る魚が皆無となり,岸辺には大量のソフトルアーが投げ捨てられ,これらのため池がバスに乗っ取られたことを物語っていた.同期の伊豆沼では小型定置網の漁獲量が1/3に減少し,バスを除いた漁獲尾数は1/10以下に減少し,ゼニタナゴやメダカは沼から完全に姿を消した.
 バス駆除は希少魚保護と同時進行で取り組むべき課題である.このような中で立ち上がったのが,シナイモツゴの模式産地である大崎市鹿島台の住民と伊豆沼の自然再生を願う一般市民たちである.前者は2002年に「シナイモツゴ郷の会」を結成し,後者は2004年に「伊豆沼バス・バスターズ」を結成した.2つの団体は協力し合いながら誰でもできるブラックバス駆除の手法を開発し,駆除の体制を整えた.さらに,彼らは本来の目的である生態系復元を実現するためにこれまで困難とされてきたシナイモツゴやゼニタナゴの復元と正面から取り組んだ.最近,彼らはため池の特性を巧みに利用して,シナイモツゴとゼニタナゴの簡易な人工繁殖方法を相次いで開発している.2006年5月,地元小学生が繁殖させたシナイモツゴをバス駆除した水域へ放流することにより自然を再生しようという夢のような企画が実現している.1~2年後にはゼニタナゴの放流も可能になるであろう.

 日本人にとってブラックバス駆除や在来魚の放流による自然再生は,地形的な特殊性や遺伝子攪乱への配慮が必要なことから,基本的にはそれぞれの地域においてこれらを考慮した独自な取り組みが行われるべきである.一方,全国津々浦々にはびこったブラックバスを退治するにあたり,行政に委ねることには限界があり,市民が積極的に参加する市民と行政の協働が不可欠となっている.私たちは多くの市民団体が自然再生を目指してバス駆除に立ち上がることを願っており,その際に本書で紹介した市民参加型バス駆除・自然再生をモデルとして参考にしていただければ幸いである.

 

巻頭言(安住 祥)
はじめに(高橋清孝・細谷和海)

1章 断罪されたブラックバス
1・1 ブラックバスはなぜ悪いのか(細谷和海)
1.外来魚とは
2.外来魚がもたらす弊害
3.原風景の消失
4.バス釣りを考える

1・2 外来生物法とオオクチバス─特定外来生物の指定をめぐって─(中井克樹)
1.外来生物法制定の背景
2.代表的な外来生物:マングースとアライグマ
3.外来生物としてのブラックバス
4.特定外来生物指定に反対する勢力
5.急転直下の特定外来生物指定
6.外来生物法の施行とオオクチバス対策の今後
7.終わりに

2章 拡がるブラックバス被害
2・1 オオクチバスが魚類群集に与える影響(高橋清孝)
1.漁獲量の推移
2.魚種組成と全長組成の変化
3.バス稚魚の出現とその食性
4.コイ科魚類における稚魚の減少と資源水準の低下
5.タナゴ類の減少
6.モツゴの減少
7.そのほかの魚の減少
8.増加した魚
9.対  策

2・2 オオクチバスが水鳥群集に与える影響(嶋田哲郎)
1.調査地および調査方法
2.水鳥類の個体数の経年変化
3.大きく減少した水鳥類─カイツブリ,コサギ,ミコアイサ
4.コサギの減少
5.カイツブリの減少

2・3 伊豆沼・内沼におけるゼニタナゴと二枚貝の生息現況(進東健太郎)
1.ゼニタナゴの産卵状況
2.二枚貝の減少
3.伊豆沼・内沼ゼニタナゴ復元プロジェクト

2・4 ブラックバスの脅威にさらされる全国20万個のため池(坂本 啓,佐藤豪一, 安部 寛,浅野 功,根元信一,五十嵐義雄,高橋清孝)
1.ため池の現状
2.ため池の役割
3.ため池の今後

2・5 河川へ拡大するブラックバス汚染(須藤篤史・高橋清孝)
1.七つ森湖におけるブラックバスの生態と魚類相への影響について
2.河川へのブラックバス生息域拡大の実態
3.河川におけるブラックバスの繁殖
4.対  策

3章 ブラックバス駆除の方法と体制づくり
3・1 駆除方法(細谷和海)
1.駆除計画  
2.駆除の実例
3.駆除の課題と技術開発

3・2 伊豆沼方式バス駆除方法の開発と実際(高橋清孝)
1.繁殖阻止方法の開発
2.伊豆沼方式バス駆除の実際
3.市民レベルの取り組みの必要性

3・3 バス・バスターズの取り組み(進東健太郎・嶋田哲郎)
1.活動の開始
2.駆除開始
3.参加者について

3・4 伊豆沼におけるバス駆除とその効果(小畑千賀志)
1.2004年度のバス駆除取組状況
2.小型定置網を用いた「バス中・大型魚の駆除」
3.バス駆除の効果
4.今後の課題

3・5 市民団体はこのようにして結成された─誰でもできる自然再生をめざす技術開発と体制づくり─(高橋清孝)
1.池干しの実施
2.池干しの手続き
3.シナイモツゴの里親募集
4.伊豆沼バス・バスターズの結成
5.活動を継続するために
<資料> 特別採捕許可申請の手続き

4章 市民による自然再生
4・1 シナイモツゴの保全への模索─長野県のシナイモツゴを例に─ (高田啓介・小西 繭)
1.シナイモツゴとモツゴの形態・生態・分布の特徴
2.長野県内の両種の勢力分布と多様性
3.交雑と種の置き換わり
4.長野県におけるシナイモツゴ保全への取り組みと展望

4・2 シナイモツゴの保護とため池の自然再生(大浦 實・渡辺喜夫・三浦一雄・鈴木康文・遠藤富男・二宮景喜・佐藤孝三・石井洋子・坂本 啓・高橋清孝)
1.里山で60年ぶりに再発見されたシナイモツゴ
2.オオクチバスの侵入と郷の会の結成
3.市民によって始まったバス掃討作戦
4.シナイモツゴの人工繁殖
5.稚魚の飼育
6.里親第一号の飼育記録
7.シナイモツゴ生息池の拡大
8.里親の募集
9.自然再生を目指して
<資料> シナイモツゴ里親制度規約

4・3 ゼニタナゴの復元(高橋清孝・進東健太郎・藤本泰文)
1.宮城県のゼニタナゴ生息状況
2.ゼニタナゴの移殖
3.ゼニタナゴ救出作戦
4.ため池の積極的利用
5.放流と管理上の留意点

4・4 よみがえれ水辺の自然(細谷 和海)
1.淡水魚はどのくらい減ったのか
2.淡水魚はなぜ減ったのか
3.淡水魚の価値
4.ブラックバス駆除後の淡水魚再生に向けて
5.淡水魚の保護の方法
6.田んぼの生き物を守る

索  引
あとがき(細谷和海・高橋清孝)

ご注文

3,400円+税

書店で購入

カートに入れる

シェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加

同じジャンルの商品

おすすめ書籍

お知らせ

一覧