人類の夢を育む天体「月」

人類の夢を育む天体「月」
著者 長谷部 信行
桜井 邦朋
ジャンル 天文学 > 天文物理学・宇宙物理学
出版年月日 2013/01/10
ISBN 9784769912927
判型・ページ数 A5・256ページ
定価 本体2,800円+税
在庫 在庫あり

この本に関するお問い合わせ・感想

人類にとって最も身近な天体である「月」。本書はアポロ計画以前から始まった月研究の変遷をたどり、現在までに解明された月の科学的知見を、探査機「かぐや」の成果とともに紹介する。また月資源の利用、月面基地など、今後の宇宙科学のフロンティア開拓となる月開発の素描に迫る。


はじめに

 月は最も身近な天体であり,人類が訪れた唯一の地球外天体である.月は地球に比べてサイズが小さいので,火成活動が比較的に初期に終息していることから,形成初期の情報を多く保存している.したがって,月は初期の惑星進化を記したロゼッタストーンのような天体であるといえる
. アポロおよびルナ両計画で大量の月物質が地球に持ち帰られて物質科学的研究が行われた結果,月に関する理解が格段に進展した.しかしながら,探査機が調査した地域は月の表側の赤道付近に限られた地域である.一方,月隕石は,化学・鉱物組成から月面物質との衝突よって無作為に宇宙空間に放出された.アポロやルナ両計画では採集されてない裏側からの隕石も見つけられている.最近の月隕石研究から,アポロ・ルナ試料では知ることのできなかった月地殻の形成がわかってきた.
 1990年代になってクレメンタインやルナ・プロスペクターの観測から,初めて月の全球観測が実施され,その結果月の非対称性や不均一性がより明確になった.2000年代の後半になると,日本の月探査機「かぐや」,中国の「嫦娥1号」,米国の「ルナー・リコネサンス(LRO)」などの月探査機が次々に月に打ち上げられ,従前の精度をはるかに凌駕する高精度で月が観測された.
 ところで,日本の月探査計画は1980 年代後半から検討されはじめた.当初は旧宇宙科学研究所(ISAS)が開発するM3SII
型ロケットを利用する計画であったが,その数年後には日本最大のHIIロケットが旧宇宙開発事業団(NASDA)で開発され,NASDAとISASとの共同で進めることになったのが月探査機「かぐや」の始まりである.大型ロケットにより多数の観測機器を搭載できるようになり,大規模な月探査計画が検討され,国際的にもリーダーシップを取れる内容で進められることになった.しかし,国内には月・惑星探査の経験者はいない状況であり,地球とは全く異なる月環境で使える機器を開発しなければならない.まさに手探り状態で試行錯誤が繰り返され,関係者の長い努力の末に「かぐや」は大成功を収めたのである.「かぐや」では自力で観測機器を開発し,独自の観測データを得て,月科学の世界で最先端に躍り出たのである.「かぐや」には15 台の科学観測装置が搭載され,これまで皆無であった月惑星探査の研究者が大勢育ち,今後の月惑星探査を担う人材も多く生まれたことは大きな日本の財産である.
 著者らは,「かぐや」に搭載したガンマ線分光計の開発,運用,データ解析に従事してきた.本書では「かぐや」で得られた成果を紹介するが,データ解析はいまだ中盤の段階であり,今後は「かぐや」をはじめほかの科学衛星データが分析・咀嚼され,月の歴史の理解はもっと進むであろう.
 月はまだまだ謎だらけだが,本書を読んで月に親しみを感じ月に関心をもつ人が,1 人でも多くなればと願っている.

まえがき プロローグ
第1章 月に懸ける夢 ―アポロ以前の研究史 1.1 地球から見た月 1.2 月を測る 1.3 地球からの遠隔観測による成果 1.4 月の成因論 1.5 月の起源と進化 ―ひとつの筋書き 1.6 ルナ,アポロ以前の研究からの成果 第2章 太陽系に占める月の位置 ―月の起源と進化をめぐって 2.1 太陽系の諸天体の構成 2.2 地球と月 ─特性から見た誕生のプロセス 2.3 月は今 ─進化の中の月 2.4 太陽系の起源との関わり ─ひとつのシナリオ 2.5 月は特異な天体か ─太陽系の諸天体の中で 第3章 月と地球 ─この特異な関係 3.1 月へのあこがれ ─ 生活上の知識を生む 3.2 月の運動 ─ 太陽,地球,そして月 3.3 天体力学的な問題 3.4 月の自転に見られる長期変動 ─ 三体問題 3.5 秤動と章動 3.6 潮汐の効果 3.7 月の運命 第4章 アポロまでの月開発の研究 4.1 米ソ冷戦下における宇宙開発 ─月への一番乗りを目指して 4.2 旧ソ連による宇宙開発 4.3 アメリカによる宇宙開発(Ⅰ)─アポロ以前 4.4 アメリカによる宇宙開発(Ⅱ)─アポロ計画 4.5 米ソによる月探査の成果 4.6 アポロ以後への里程標 ─まとめに代えて 第5章 ルナ,アポロまでの月科学研究 5.1 アポロ・ルナ試料 5.2 月の高地の岩石 5.3 月の海の玄武岩と火山性ガラス 5.4 月のマグマの成因 5.5 マグマオーシャン 5.6 月地殻の形成モデル 5.7 月のでき方 5.8 これからのアポロ試料研究 5.9 月のクレーター 5.10 月の年代 第6章 月研究の近代史 6.1 隕石  6.1.1 隕石の分類  6.1.2 1969年  6.1.3 月隕石の発見  6.1.4 これまでの月隕石研究 6.2 月探査機による月研究  6.2.1 ひてん(HITEN):日本  6.2.2 クレメンタイン(Clementine):アメリカ  6.2.3 ルナ・プロスペクター(Lunar Prospector):アメリカ  6.2.4 スマート-1(SMART-1):ヨーロッパ  6.2.5 かぐや(SELENE(KAGUYA)):日本  6.2.6 嫦娥1号(Chang'e):中国  6.2.7 チャンドラヤーン-1(Chandrayaan-1):インド  6.2.8 エルクロス(LCROSS):アメリカ  6.2.9 ルナー・リコネサンス・オービター(Lunar Reconnaissance Orbiter):アメリカ   第7章 「かぐや」計画とその研究成果 7.1 「かぐや」計画の概要 ─全体の展望 7.2 月探査機「かぐや(SELENE)」の構成  7.2.1 ミッション機器の概要 7.3 「かぐや」が得た新しい月の描像  7.3.1 月の形状─「かぐや」レーザ高度計による観測  7.3.2 月の重力場 ─「かぐや」による月裏側の重力場の直接観測  7.3.3 月の地殻 ─「かぐや」が明らかにした月の最外殻部分の構造  7.3.4 月の火山活動─「かぐや」地形カメラが明らかにした月裏側での火山活動  7.3.5 月の縦孔と溶岩チューブ  7.3.6 月の極域 ─ 将来の月探査基地の候補地  7.3.7 おわりに 第8章 将来の月科学 ─予測と展望 8.1 はじめに 8.2 これからの月探査法  8.2.1 月軌道船からの遠隔探査  8.2.2 表面探査車による局所的な月面調査  8.2.3 月ネットワークによる内部探査  8.2.4 サンプルリターン  8.2.5 有人探査 8.3 残された月の謎 8.4 近未来の月探査 8.5 月探査「かぐや」の後継機  8.5.1 セレーネ2(着陸探査)  8.5.2 セレーネ2 の概要  8.5.3 着陸地点  8.5.4 セレーネX 号機 8.6 月に続く火星探査 第9章 月の資源利用と月基地建設 9.1 月探査  9.1.1 世界の月探査加熱の理由 9.2 月面基地と有人活動 9.3 月の資源  9.3.1 月の水と酸素  9.3.2 ヘリウム3(3He)  9.3.3 月のレアメタル 9.4 月から小惑星へ向けて─小惑星資源開発が遠い将来の目標 9.5 宇宙に乗り出す未来の文明 ─月資源利用との関わり エピローグ 付録 月の地形

ご注文

2,800円+税

書店で購入

カートに入れる

シェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加

同じジャンルの商品

おすすめ書籍

お知らせ

一覧