東京湾

人と自然のかかわりの再生

東京湾

東京湾の生態系を学際的な知見でまとめる。

著者 東京湾海洋環境研究委員会
ジャンル 海洋学・環境科学 > 海洋
出版年月日 2011/02/28
ISBN 9784769912385
判型・ページ数 B5・448ページ
定価 本体10,000円+税
在庫 在庫あり

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東京湾の過去、現在、未来を総括し学際的な知見でまとめた決定版。流域や海域のすがたから東京湾とのかかわりの歴史、そして過去から学ぶ東京湾再生への展望を様々な視点から解説する。東京湾の環境はどう変わり、これからどう向かうべきなのか、
30名以上の執筆者によって現状の東京湾生態系のデータを集めた集大成ともいうべき充実の内容。


はじめに

(略)
 1996年11月28日,東京神田で「東京湾海洋環境シンポジウム」が開かれた.このシンポジウムは,日本海洋学会の海洋環境問題委員会が世話人となって,東京湾の水域環境に関係する学会に働きかけ,東京湾海洋環境シンポジウム実行委員会(後に名称を東京湾海洋環境研究委員会,以後,本委員会)として,日頃会する機会の少なかった複数の学会の共同主催という形で実現した.シンポジウム終了後,各学会派遣委員の間から,この東京湾の海洋環境を考えるシンポジウムを継続して,10年後には社会に向けて東京湾の水域および流域の環境再生に向けた提言をしましょうということになった.これが本書出版の発端である.それとともに,東京湾に関するまとまった内容の本は,1993年出版の「東京湾―100年の環境変遷―(小倉紀雄編)」以来ないことから,本委員会は東京湾の現状を整理することとした.
(略)
 本委員会は単独の学会や団体では越えられない専門分野を横断して東京湾の環境問題に関するシンポジウムを共催すること,そして,研究者以外の行政関係者や住民など様々な人たちに参加してもらい,科学者の成果や考え方を知ってもらって,最終的には東京湾の環境回復につなげていくことを目的に活動してきた.本委員会は科学者としての公平中立な立場からの社会貢献をめざしており,利益を求めない自主運営による科学者の学会連合体であり,任意団体である.参加学会・団体数は,第1回のシンポジウム時は11,現在では17となっている.

参加学会・団体:応用生態工学会,水産海洋学会,東京湾学会,土木学会海岸工学委員会,日仏海洋学会,日本海洋学会,日本海洋学会沿岸海洋研究会,日本環境学会,日本魚類学会,日本水産学会,日本水産工学会,日本地球化学会,日本付着生物学会,日本プランクトン学会,日本ベントス学会,日本水環境学会,日本陸水学会(アイウエオ順)

 本委員会の構成は,自然科学系に偏りはあるが,これだけの数の学会団体が集結して,東京湾という一地域の場の環境再生を学際的に論じたことは,これまでの日本では前例がない.それだけ本委員会に参加した学術団体は,東京湾の水域および流域環境に対し大きな危惧の念を抱いている.
(略)
 本書の構成は7つの章からなっている.第1~3章では東京湾の現状を様々な角度から紹介して理解を深めるとともに,できるだけ東京湾のたどってきた道がわかるように努めた.執筆者は本委員会に参加する学会団体からの推薦,あるいは,事務局から直接依頼している.実際の東京湾は,本書を読んでいただくとわかるが,わからない現象が山積みの海域でもある.第4章ではこれまでの委員会活動やシンポジウム会場からいただいた声をもとに,東京湾をどのように再生するかの目標を示す.第5章ではその目標に向けての具体的対策や取り組みというよりは,できることできないこと含めて,どのような態度で再生に臨むのかを含めて論述した.したがって,具体性に欠けるかもしれないが,対策における重要な視点は盛り込んでいる.第6章は,再生の先,あるいは再生にあたって,私たち社会が,今後どのように進んでいくのがもっとも望ましい姿なのか,そこで科学者はどのような役割を担っていくのかを論述する.そして第7章では,科学者が東京湾の再生と正対する場合,どのようなことを考え,どのような役割を自らに課しているのか,科学者の考え方を,東京湾とのかかり方を記載した.そのことによって,これから科学者をめざす人たちや,東京湾の再生という長い道のりをともに歩み,受け継いでくれる人たちをリクルートできればとの思いが込められている.
 本書のタイトルは「東京湾-人と自然のかかわりの再生」とした.私たちの社会がこれからも持続していくには,私たちの生存を可能にしている自然環境への負荷を緩和し,自然の利用と保全のバランスをかなり厳密に考えていかなければならない.人間活動の影響の大きい沿岸・流域においては,特にそれが大切であるが,一方で,私たちの社会は過去に自然と上手く共存し,自然の恵みを最大限に引き出していた社会でもあった.それが開発に走り,自然との距離が離れた時期が続いていた.しかし,過去にあった自然との共存を上手くやっていた知恵をもう一度見直し,利用して,新たな知恵を加えることで発展させることは可能である.そして,自然との距離を上手くとることで社会自体が持続する,そういう将来像を描きたいということから,本書のタイトルはつけられた.
 かつて平野の農耕を営む人々が,大切な水源である山麓さらには源流にまでその生活基盤を見つめていたように,今日の東京湾でも,関東地域の山々,丘陵,平野,林,森,農地,市街地,都市,工業用地,港湾などの流域は水を通した物質循環でつながっていることを再認識する必要がある.本書では水循環を基にした流域単位での環境の健全化がなければ,一番川下に位置する東京湾の再生は不可能であるという視点から,目標を設定し対策案を提出した.この本の刊行が,東京湾の水域環境を今一度見つめ直す一助となれば幸いである.

第Ⅰ部 東京湾のすがた
第1章  流域/第2章 海域/第3章 東京湾と人のかかわりの歴史
第Ⅱ部 東京湾再生に向けて
第4章 再生の目標:自然の恵み豊かな東京湾/第5章 東京湾を再生するために/第6章 人と自然のかかわりの再生
第Ⅲ部 付録
第7章 研究者として東京湾再生に向けて望むこと

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