カツオ・マグロのスーパーパワー

一生泳ぎ続ける魚たち―もっと知りたい!海の生きものシリーズ1

カツオ・マグロのスーパーパワー

究極の魚、カツオ・マグロの遊泳能力はまさに超能力。人間なら短距離とマラソンで同時に金メダリストになれる驚きの体の仕組みを解説

著者 阿部 宏喜 生物学一般
ジャンル 海洋生物学 > もっと知りたい!海の生きものシリーズ
シリーズ もっと知りたい!海の生きものシリーズ
出版年月日 2012/06/29
ISBN 9784769912606
判型・ページ数 A5・112ページ
定価 本体1,800円+税
在庫 在庫あり

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カツオ・マグロは究極の魚? そして、カツオとマグロはどう違うのか。魚の王者といわれるその驚きの能力のすべてが明らかになる。超能力(スーパーパワー)の秘密は、魚でありながら体温が高いことにある。人間でいえば、100メートルとマラソンの金メダルになれてしまうすばらしい遊泳能力のひみつをわかりやすく解説。(中学生以上向け)


はじめに

 水の中で酸素を呼吸するのは大変

 海の中の環境は私たちの住んでいる陸上とはとても大きく異なっている。第一に空気つまり酸素がない。ないわけではないけれど、空気は水の中に溶けこんでいる。溶けこむのは海の表面からのため、深い海には酸素はほとんど届かない。だから海の中に住む動物たちの呼吸は、私たちが空気を吸って酸素を取りこむようなわけにはいかない。動物はすべて酸素を呼吸する必要がある。そのため、クジラやイルカやアザラシなどの海のほ乳類やウミガメなどは、海の中に潜っていてもときどき顔を出して空気を吸わなくてはならない。

 ところが魚はずーっと海の中に潜ったままだ。魚は口から水を取りこんでエラを通して外に出し、水の中に溶けている酸素をエラで取り入れている。水の中には空気中の1/30くらいの酸素しか溶けていない。だから魚たちは呼吸をするだけでも大変だ。陸上でも激しい運動をすると息が苦しくなり、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、とあえいでしまう。水の中に住んでいれば呼吸するだけでも大変なのに、そこで運動するのはもっともっと大変なのだ。
水はとても重い

 プールや海で泳ぐとき、なかなか前に進めないと感じたことがないだろうか。浅いプールの中を歩いて行くのさえも大変だ。なかなか進めない。陸上を歩いたり走ったりするのとは大違いだ。これは空気と比べて水はサラサラしていないことによる。専門用語では粘度が高いという。水の中を進むのは空気中の60倍も大変なことなのだ。

 空気中に浮いているのは鳥や昆虫のように羽をもっていないとむずかしいけれど、水の中では楽に浮いていられる。いや、泳げない人にとっては楽ではないかもしれないけれど、小さな浮き輪があれば大丈夫だ。プールよりも海の方が楽に浮いていられるのはよく経験することだろう。これは塩分のせいだ。海水は3.5%くらい塩を含んでいる。つまり、1リットルの海水には35グラムもの塩が含まれる。海で泳いでいて海水を飲んでしまうとしょっぱくってつらいね。

 イスラエルとヨルダンの間にある死海は30%近い塩分が含まれるため、あおむけに浮いて本が読めるくらい浮きやすいらしい。テレビなどでよく見る風景だ。でもこんな海には魚は住めない。

 塩が多いほど海水の密度が大きい。密度が大きい液体ほどものを浮かせる力(浮力)が大きくなる。つまり、塩が多いほど浮力が大きくなるため、浮きやすくなるのだ。だから海の魚たちにとっては、海で浮いているのは楽だろう。でも水は粘度が高いため、水の中で泳ぐのは大変なのだ。
回遊する魚たち

 海に住む魚たちは私たちが想像しにくいきびしい環境に住んでいるといえるだろう。酸素が少なく前に進むのが大変な海の中で、さらにエサを捕まえたり、敵から逃げたりするのはとても大変なことなのが想像できるだろうか。だから、ほとんどの魚は自分の住みかを決めて、その周辺だけでゆったりと生活している。タイやヒラメやフグなんかはそんな魚の代表だ。

 でも魚の中には何千キロメートルも何万キロメートルも旅行するものもいる。これを回遊といっている。サケやウナギの回遊は有名だから知っていると思う。これは産卵のための回遊だ。サケは産卵のために生まれた川に戻り、ウナギは川から海に下ってグアム島近くの深海まで行って産卵するのだ(図)。

 イワシやサバ、サンマやニシンなども集団で長距離の回遊をする魚たちだ。このような回遊は産卵のためや豊富なエサを求めての大旅行だ。こういう回遊をする魚にはまだまだわからないことがとても多い。
カツオ・マグロのスーパーパワー

 この本で述べるカツオやマグロも長距離の回遊をする魚の代表だ。あとで詳しく説明するように、クロマグロは大西洋や太平洋を渡って大回遊することがわかってきた。また、北海道やアイスランドなどのとても冷たい北の海にも回遊して行って、豊富なエサを食べて丸まると太るのだ。

 また、かれらは冷たい海の中でも、体の中心部の体温をかなり高く保っていることがわかってきた。ほかの魚の体温は海水の温度と同じだから、この能力はすごい。ほ乳類に近いような能力だ。

 しかも、かれらの泳ぎはとても速い。普段ゆったり泳いでいてもほかの魚と比べてとても速いけれど、短時間なら時速100キロメートルで泳げることがわかっている。粘度が高く、酸素の少ない海水中でのこの速度と運動能力は驚異的だ。 おまけにかれらは生まれてから死ぬまで一生泳ぎ続けているらしい。このような運動能力を支えるのはかれらのすばらしい体の仕組みなのだ。最近になってそういうカツオ・マグロのスーパーパワーの仕組みがわかってきた。

 この本ではそのようなカツオ・マグロのスーパーパワーの秘密について詳しく説明したい。でも体の仕組みは生理学や生化学というむずかしい学問分野で研究される内容であるため、その仕組みは少し理解がむずかしい。正確には高等学校の生物で学ぶ内容も出てくる。特に、第5章で扱われている内容がそのような分野のもので、この章は完全には理解できなくてもかまわないだろう。でもいずれ教わることであり、複雑だけれど私たちの体の中でも起こっていて、カツオ・マグロのスーパーパワーのポイントでもあるため、理解するよう挑戦してほしい。

 それでは、カツオ・マグロのすばらしい能力を探る旅に出よう。用意はいいだろうか?

第1章 カジキマグロはマグロの一種か? /第2章 カツオ・マグロは一生泳ぎ続ける?/第3章 カツオ・マグロの体の秘密/第4章 カツオ・マグロの筋肉の秘密/第5章 カツオ・マグロの運動能力の秘密/第6章 カツオ・マグロの体温はほ乳動物なみ? /第7章 クロマグロの大回遊を追う/第8章 マグロの未来

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