キンギョはなぜ海がきらいなのか?

もっと知りたい!海の生きものシリーズ8

キンギョはなぜ海がきらいなのか?

淡水と海水魚の体の違い、浸透圧の謎に迫る

著者 金子 豊二
ジャンル 海洋生物学 > もっと知りたい!海の生きものシリーズ
シリーズ もっと知りたい!海の生きものシリーズ
出版年月日 2015/06/05
ISBN 9784769915577
判型・ページ数 A5・120ページ
定価 本体2,500円+税
在庫 在庫あり

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キンギョはなぜ海水に入れると死んでしまうのか? フグを真水に入れるとどうなるか? 海と川を行き来するサケやウナギはどうして平気なのか?そのひみつが魚の浸透圧調節にある。体内の塩分を調節するこの仕組みは誰もが直感的に理解しているが、その謎は奥が深い。魚の常識の裏側に広がる生命の神秘に科学の世界から迫る。


はじめに

 お寺や神社の縁日で、ずらっと並んだ屋台や出店をきょろきょろしながら歩くのは、大人になっても楽しいものだ。ついつい童心に返って屋台の前で足を止め、たこ焼きを器用にひっくり返すしぐさやふわふわの綿菓子ができてくる様子に見ほれてしまう。心奪われるのは何も食べ物だけではない。金魚や水風船も夏の縁日には欠かせない必須アイテムだ。日本人は古くから、金魚すくいや水風船で、蒸し暑い夏に涼をとってきた。おそらく、金魚すくいをやったことのない人は、ほとんどいないのではないだろうか。そして、小さなビニール袋に入れた金魚を家に持ち帰ったものの、もてあましてしまうという経験をした人も少なくない。私も小学生のころ、金魚すくいでもらった小さな魚をイチゴのビニールパックに入れて飼育の真似ごとをしたことがあるが、すぐに死んでしまった。金魚すくいという伝統的な遊びのおかげで、短い期間であるにせよ、魚を飼うという経験をした日本人は多いはずだ。
ところで金魚すくいの「金魚」はふつう漢字で書くが、科学的な話の中では魚の名前を「キンギョ」のようにカタカナで表す。でも漢字やひらがなで書いてもまちがいではない。そもそも魚の名前は全国共通ではなく、同じ魚を地域によって異なる名前で呼ぶことも多い。今でもそのような「魚名の方言」はたくさん残っている。たとえば、「ハヤ」といった場合、場所によってはウグイ、アブラハヤ、オイカワなどのちがった魚を指し示すのだ。しかしこれだと混乱が生じて困ることもあるので、全国共通の標準語として決めたのが「標準和名」だ。標準和名はカタカナで表記し、科学の世界で魚の名前を書くときは、「キンギョ」とすることが約束になっている。でも「金魚すくい」を「キンギョすくい」と書いてしまうと、趣を失いとても残念な感じだ。

魚が身近な生き物であるのは、金魚すくいのせいばかりではない。日本人が魚を古くから食べてきたのは、四方を海に囲まれた島国であることを考えれば当然といえる。実際、魚は日本人のタンパク質源として重要な役割をはたしてきた。ところが、日本人一人当たりの魚の消費量は、2006 年についに肉の消費量に追い越されてしまった。魚の研究をしている私としては、少し残念だ。ここ何十年かで日本人の食習慣が大きく変わり、魚の需要が減少したことは確かだが、それでも日本人は魚好きである。
魚といえば魚釣りを連想する人も多いだろう。魚釣りは若い人から年配の方まで根強い人気を誇り、最近では女性の釣り師も増えているという。かつては地味なイメージのあった魚釣りだが、オシャレなスポーツというとらえ方が定着してきたようだ。確かにカラフルな装いでルアーフィッシングを楽しむ姿はカッコいいものだ。

 魚のことに特に詳しい人でなくても、キンギョやフナが淡水魚であることはだれもが知っている。「キンギョを海水に入れるとどうなると思う?」と質問すると、多くの人は「死んでしまう」と答える。実際にキンギョを海水に入れると、しばらくは生きているが、やがて死んでしまう。では、ためしたこともないのに、なぜキンギョが海水で生きられないことを知っているのだろうか。またサンマやイワシなどの海水魚が川を泳いでいる姿は想像しにくい。実際に、淡水魚の場合とは逆に、多くの海水魚は真水では生きていけない。一方で、淡水と海水の混じり合う河口付近にすむ魚は、淡水と海水のどちらでも生きられる。またサケやウナギなどの魚は、一生のうちで川と海の両方を経験する。川でも海でも生きられる魚は「広塩性魚」という。それに対し、淡水または海水でないと生きていけない魚を「狭塩性魚」という。私たち人間から見れば、川で泳ぐのも海で泳ぐのも大きなちがいはないように思える。水が得意のはずなのに「淡水でないとダメ」あるいは「淡水はきらい」という魚がいる一方で、淡水、海水のえり好みをしない魚もいるのはどうしてだろうか。 淡水や海水で生きる魚が、体内の塩分濃度を調節するしくみを「浸透圧調節」という。浸透圧調節という専門的な言葉を知らなくても、実は多くの人がすでに魚の浸透圧調節についてある程度、直感的に理解している。キンギョが海水で生きられないのは、海水の中で浸透圧調節がうまくできないからなのである。この本では、意外と身近な現象である魚の浸透圧調節をわかりやすく解説したいと思う。読者の皆さんには、魚だけに「目からウロコが落ちる」ように、川の魚・海の魚の不思議を楽しく理解してもらいたい。

第1章 水に生きる魚/第2章 海の魚、川の魚/第3章 体の中を快適な環境に保つ/第4章 浸透圧調節のしくみ/第5章 鰓の働き/第6章 腎臓と腸の働き/第7章 赤ちゃん魚の浸透圧調節/第8章 海と川を行き来する魚/第9章 海から川へ、そして川から海へ

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