有害有毒プランクトンの科学

有害有毒プランクトンの科学

水産業では毎年、赤潮や魚介類の毒化の被害が生じる。原因種の有害有毒プランクトンに関する知見を総括し赤潮や貝毒対策を展望する。

著者 今井 一郎
山口 峰生
松岡 數充
ジャンル 海洋生物学 > 生理・生態
出版年月日 2016/02/10
ISBN 9784769915805
判型・ページ数 B5・352ページ
定価 本体5,500円+税
在庫 在庫あり

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有害プランクトンによる赤潮の発生や魚介類の毒化および養殖ノリの色落ち等は、長年水産業に大きな被害をもたらしてきた。有害有毒プランクトン全般にわたって分類・生理・生態・生活環・個体群動態等に関する近年の成果や知見を広く総括し、発生機構に基づく赤潮や貝毒の予知・予察の可能性を探り、研究の将来を展望する。


はじめに

 海洋生態系においては基礎生産を担う植物プランクトンが,海中の,あるいは海に食糧を依存する生きとし生けるものすべての生命の源となっている.われわれ人間も海から豊かな水産物の恵みを受けており,その根源は植物プランクトンにあるといえよう.海洋の植物プランクトン群集は多種多様な分類群の生物から構成されており,これは陸上の主要な基礎生産者が維管束植物門など植物界の一部のグループから構成されている点と大きく異なる.海洋の基礎生産者である植物プランクトンは,真核生物で9門,原核生物の藍藻類を入れるとさらに多様な生物群から構成されていることになる.海産種の数は5,000種を超えるとされており,淡水産種で15,000種以上知られているが,実際には未だ調査が十分に進んでいない海産の方が種数は多いと考えられている.このように多様な植物プランクトン種の中には,大量に増殖して赤潮を形成し魚介類に致死作用を示すもの,あるいは高等動物に対して致死作用等をもたらす毒を生産し細胞中に保有するもの等,様々な有害有毒プランクトンが存在している.とくに赤潮による養殖魚介類の大量斃死と有毒プランクトンによる有用二枚貝類の毒化は,水産における大問題としてだけでなく,海洋生態系への悪影響から環境問題としても認識されている.
 有害赤潮による漁業被害としては,具体的には100年以上も前から渦鞭毛藻類のカレニア(Karenia mikimotoi)によるものが報じられており,コクロディニウム(Cochlodinium polykrikoides)やラフィド藻類のシャットネラ(Chattonella spp.)等による養殖魚介類の大量斃死が深刻なものとしてあげられ,現在もそれらによる被害が続いている.大規模な被害を伴った記憶に新しい有害赤潮としては,八代海や有明海において2009年と2010年に発生したシャットネラ赤潮,および豊後水道に面する宇和海で2012年に発生し養殖魚介類の大量斃死を引き起こしたカレニア赤潮等があげられる.加えて外来種と推察されるヘテロカプサ(Heterocapsa circularisquama)による二枚貝類の斃死被害も深刻であり,最近では日本海の佐渡島にある汽水湖の加茂湖を舞台として養殖カキに対して新たに斃死被害が発生するようになっている.さらに珪藻類による養殖ノリの色落ち被害は,有明海や瀬戸内海等を中心にほとんど毎年発生し,春の珪藻赤潮によってノリ養殖はシーズンを終えるというパターンが定番化している.
 有毒プランクトンによる水産被害に目を転じてみると,北日本を中心に,下痢性貝毒や麻痺性貝毒による有用二枚貝類(ホタテガイやカキが中心)の基準値を超える毒化がほぼ毎年起こり,出荷の自主規制がなされている.特に麻痺性貝毒による二枚貝類の毒化状況を俯瞰するならば,出荷規制の発生する海域が近年は大阪湾など西日本沿岸域にも拡大して定着した感がある.また,気仙沼湾では2011年の大震災に伴う巨大津波で壊滅したホタテガイ養殖が,関係者の必死の努力によって復興の努力がなされ,やっと出荷が可能になり再開された2013年にこれまでほとんど発生の記録のなかった麻痺性貝毒によって出荷が規制され,水産業の復興全体に暗雲が立ち込めてきている状況にある.さらに海藻類に付着する有毒渦鞭毛藻類も,海洋温暖化に伴って世界的に分布が拡大する傾向にあるといえる.
 有害プランクトンによる赤潮の発生と有毒プランクトンによる魚介類の毒化の機構は,種特異的かつ水域特異的であり,したがってその発生の予察もまた同様である.よってこれらの発生予察や被害軽減に向けてのモニタリングは,対象とする原因生物と水域環境の多様性をしっかり考慮し,それらの特性に立脚する必要がある.以上から,原因となっている有害有毒プランクトン種について,分類・生理・生態・生活環・個体群動態等に関して,現時点における研究の到達点を総括し,将来の有望な展開や,研究のボトルネックになっている問題点等の整理を行うことは喫緊の課題といえる.本書においては,有害有毒プランクトンに関する研究成果について近年の知見を広く総括し,発生機構に基づく赤潮や貝毒の予知・予察の可能性を探り,これからの研究の進展方向を展望する.
 本書が現役の研究者のみならず,赤潮研究に取り組む新参研究者や機関職員,関係の学問領域に関心を抱く学生の皆さん,あるいは現場で養殖等の水産関係の仕事に関係している方々の参考になることを切に祈念します.(後略)

第1部 有害有毒プランクトンの分類
1-1 渦鞭毛藻の分類(松岡數充・高山晴義)/1-2 ラフィド藻類の分類と分布(今井一郎)/1-3 珪藻類の分類(板倉 茂)

第2部 有害有毒プランクトン研究の新たな展開
2-1 有害有毒渦鞭毛藻とシスト(松岡數充)/2-2 分子生物学的研究手法の進展(長井 敏) /2-3 有機態窒素・リンと増殖(山口晴生)/2-4 有害赤潮プランクトンによる鉄の利用特性(内藤佳奈子)/2-5 有害有毒プランクトンの増殖におけるポリアミンの役割 (西堀尚良)/2-6 クロロフィル a 蛍光を用いた赤潮藻類の光合成活性測定について(小池一彦・有元太朗)/2-7 赤潮藻類の生理生態に及ぼす光環境の影響(紫加田知幸)/2-8 有害有毒プランクトンとアレロパシー(山﨑康裕・本城凡夫)/2-9 牡蠣など二枚貝の着色現象を引き起こすプランクトン(畑 直亜)/2-10 島嶼海域での低密度赤潮による新たな漁業被害の発生(山砥稔文・石田直也)/2-11 Chattonella の魚毒性発現機構-活性酸素関与の可能性(小田達也)/2-12 貝リンガルによる渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquama 赤潮の予察(永井清仁・本城凡夫)/2-13 赤潮のモニタリングとモデリング-八代海の Chattonella 赤潮を例として(鬼塚 剛・折田和三・櫻田清成・青木一弘)

第3部 主要な有害プランクトンにおける生理,生態,生活環,および赤潮の動態
3-1 Cochlodinium polykrikoidesの増殖特性と生活環(坂本節子・山口峰生)/3-2 Heterocapsa circularisquama の個体群動態と環境要因(外丸裕司・白石智孝)/3-3 Karenia mikimotoi の赤潮動態と発生予察・対策(宮村和良)/3-4 夜光虫 Noctiluca scintillans の動態-水質環境ならびに海洋生態系における役割(荒 功一・福山哲司)/3-5 有害赤潮ラフィド藻 Chattonella の生物学と赤潮動態(今井一郎・山口峰生)/3-6 ディクティオカ藻 Pseudochattonella verruculosa による魚類斃死(折田和三)/3-7 Heterosigma akashiwo の生理生態(紫加田知幸・本城凡夫)/3-8 海苔色落ち原因珪藻類の生理,生態,生活環と個体群動態(西川哲也)/3-9 有明海の新たなノリ色落ち原因珪藻 Asteroplanus karianus(松原 賢)/3-10 休眠期を持つ珪藻類(石井健一郎・石川 輝・今井一郎)

第4部 主要な有毒プランクトンにおける生理,生態,生活環,およびブルームの動態
4-1 下痢性貝毒原因渦鞭毛藻 Dinophysis 属の現場生態(西谷 豪・石川 輝・高坂祐樹・今井一郎)/4-2 Dinophysis 属の培養と増殖特性(長井 敏・神山孝史)/4-3 Alexandrium catenella のシストの発芽と個体群動態(石川 輝・石井健一郎)/4-4 北海道オホーツク海沿岸における有毒渦鞭毛藻 Alexandrium tamarense の出現予察 (嶋田 宏・澤田真由美・浅見大樹・田中伊織・深町 康)/4-5 Alexandrium tamarense species complex 北米クレードの北半球高緯度域における分布(夏池真史・今井一郎)/4-6 Gymnodinium catenatum の動態および貝毒の予測と軽減(宮村和良・野田 誠)/4-7 付着性有毒渦鞭毛藻類の生態・生理(足立真佐雄)

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