初期シカゴ学派の世界

思想・モノグラフ・社会的背景

初期シカゴ学派の世界

シカゴ学派の魅力と生命力の根拠を論述

著者 宝月 誠 編著
吉原 直樹 編著
徳川 直人
ジャンル 社会学 > 社会学理論
出版年月日 2004/03/30
ISBN 9784769909989
判型・ページ数 A5・260ページ
定価 本体3,600円+税
在庫 在庫あり

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注目されるシカゴ学派。様々な可能性を秘めたシカゴ学派の知的生産力の魅力を、その理論・思想・モノグラフからのみならず、背後にある当時の都市的環境・文化的雰囲気・研究組織・研究資金などから浮かび上がらせる。本書の活用は、シカゴ学派の知的遺産の理解を深め、そして新たな理論展開のバネとなるだろう。


はじめに

近年、シカゴ学派社会学への関心が高い。アメリカはもとよりイギリスやフランス、ドイツ、イタリアそして日本でもシカゴ学派に関する著書や論文が続出している。世界各地で「シカゴ学派ルネッサンス」が生じていることは大変興味深い現象であるが、シカゴ学派への関心の持ち方も各自によって多様である。なかにはシカゴ学派の継承者を自認することで、自らのアプローチに正統性を付与しようとするものもいる。こうした自称シカゴ学派は別にして同学派への関心はおおよそ四つのタイプに分かれる。
 一つは従来の肯定的であれ否定的であれステレオタイプ化されたシカゴ学派のイメージないし「神話」を脱構築し、シカゴ学派の新たな像を構築しようとするリビジョニストの試みである(L. Harvey, M. J. Deegan, J.Platt, D. Smith)。第二のものはシカゴ学派の思想や方法論やモノグラフの再考を通じて、現在の社会学研究の展開のための糧として利用しようとする試みである(Janowitz の編集した the Heitage of Sociology のシリーズにはこうした意図がある)。変数分析を中心とする現代社会学に代替するあらたなアプローチを模索する試みなどはその一例である(A. Abbott の実証的ナラティブ分析など)。第三はシカゴ学派の方法や研究内容に限らず環境にも目を向け、研究を支えた制度や組織、さらに当時のシカゴの政治的・経済的・文化的関心など広い文脈から、シカゴ学派の興隆と衰退を明らかにしようとするものである(M. Bulmer)。第四のものとしては、シカゴ学派の文献を渉猟して、その多様な研究領域を整理し、さらに未刊行の文献・書簡まで含めた地道な文献学的な考証を加える研究である(G. A. Cook, H. Joas)。シカゴスタイルの実像がアーカイブから呼び覚まされてくるのである。
 本書をこうした研究動向に位置づけるとするならば、第二と第三の立場に近い。シカゴ学派の知的遺産との対話を通じてそこから新たな社会学的営為の糧を得るために、シカゴ学派を担ったトマスやパークやミード、さらにその先駆者たち(サムナー、ウォード、スモール)の思想や方法論の再検討をおこなう。もちろん、そのためには第一と第四の研究成果を十分踏まえて行なわねばならない。さらに注意すべきは、シカゴ学派はこうした巨人たちによってのみ生み出されたものではないということである。二〇世紀初頭の都市的世界のさまざまな人生模様を生き生きと描いた一連のモノグラフこそがシカゴ学派の実質的な研究成果である。巨人の思想のみならずモノグラフと真摯に向き合うことで、そこから多くのことを学び取ることができる。
 また、こうした知的宝庫であるシカゴ学派を理解するには巨人やモノグラフだけに目を向けていては不十分である。その知的生産力の背後にある当時の都市的環境や文化的雰囲気や研究組織や研究資金など幅広い文脈のなかで捉える必要がある。創造性豊かな研究者世界を生み出すのはいかなる環境や組織であるのかということは興味深いテーマであるが、シカゴ学派はまさに格好のケーススタディの対象である。本書で取り上げたのは当時のシカゴの都市環境と研究を支援した財団などのフィランソロピーだけであるが、こうした限られた面だけからもシカゴ学派の活動を可能にした社会環境への理解は深まるものと思われる。
 以上のような観点から本書は三部構成とし、第一部ではシカゴ学派の巨人の思想・科学論に検討を加えた論考を配した。第二部ではシカゴ学派のモノグラフを取り上げ、今日的意義を論じている。最後の第三部ではシカゴ学派の形成の社会的背景と研究資金の基盤をインテンシブに論じた論文を配した。本書は単なる論文集ではない。思想・実質的研究内容・社会的背景の三位一体で学説研究は遂行されなくてはならないという視点に基づいて編集されている。そして各論文は特定のテーマに限定して、できるだけ深く論じるよう心掛けている。そのため初期シカゴ学派全体に対する目配りは幾分欠けているかもしれないが、シカゴ学派の知的遺産の理解はかなり深められたと思う。この点に本書の独自性があると自負している。
 もっともシカゴ学派がもともと多様であるので、その再検討を通じて生み出されてくるものが、ひとつのまとまりを示すとは限らない。本書も各論者の様々な視点と立場からなされたシカゴ学派の再生と新たな創発の試みであり、無理に一貫性や統一性を求めていない。ただ異質なものに寛容であるだけでなくて、異質なものをさらにより一段と広い視野と統合性のレベルで止揚するより「一般化されたパースペクティブ」のなんらかの可能性を、多様な視点のなかから読み取っていただければ、編者としては望外の喜びである。
 本書の執筆者は仙台と京都をそれぞれ拠点とする二つの研究グループの共同作業の成果である。二つのグループは別々にシカゴ学派の研究を進めてきたものであるが、幸い編者が互いに旧知の間柄であったので、それぞれの成果を持ち寄ることで研究をさらに推進することができるのではないかと考え、今回の企画を立てた。早い段階で原稿をいただきながら諸般の事情で作業が遅れたが、本書の当初の意図は一応達成されたものと思う。

第一部 シカゴ学派の思想・科学 第一章 サムナー・ウォード・スモールにおける「科学」と「改革」―シカゴ学派に先立つ創立者たち―  一 社会の科学と法則の支配  1 「改革」と「科学」の交錯 2 基点としてのコントとスペンサー 3 「法則」の支配とデモクラシー  二 W・G・サムナー   1 社会原動力 ― 競争と自己救済  2 フォークウェイズ ― エスノグラフィーから倫理の再構成へ  三 L・F・ウォード  1 ソシオクラシー ―― 法則のコントロール  2 応用社会学 ―― 実験室としての社会  四 A・W・スモール 1 AJS創刊 ―― 社会学・リベラリズム・そして都市へ  2 「社会過程」へ―― 相互作用論の端緒  五 むすびにかえて  第二章 W・I・トマスと「社会心理学」の形成  一 「社会心理学」の領域の開拓  1 社会的ダーウィニズム(特に本能論)からの脱却  2 「社会心理学」の領域設定 3 構成心理学から機能心理学、社会心理学への展開  4 個人と社会の相互作用的観点   二 解体と再組織化論  1 社会解体と再組織化 2 個人解体と再組織化(社会的パーソナリティ論、四つの願望論)  三 トマスの「状況の定義」概念  1 社会的な状況の定義と個人的な状況の定義  2 未来構成的な状況の定義  四 まとめ―― トマスの理論図式――  第三章 G・H・ミードの思想形成過程  一 初期プラグマティズムによる弁証法の批判的継承 1 ミードの基本問題「特殊と普遍の問題」 2 プラグマティズムによる弁証法の救済 3 プラグマティズムによる「特殊と普遍の問題」の解決 4 初期ミードの科学的方法 二 中期における行為の弁証法としての発生論の構築  1 初期プラグマティズムの問題点 2 中期における、自我と思考の発生論の構築   (1)社会的行為の定式化と、自己刺激・自己反応論   (2)公刊論文 おける「I・me」論  (3)『IS』における思考の位置づけと、中期「I」の性質 3 中期における弁証法の深化と残された課題  三 晩期における社会秩序論   1 初期・中期(第一次世界大戦以前)の社会秩序論  2 第一次世界大戦と具体的普遍  3 具体的普遍にもとづく晩期の社会秩序論  第四章 G・H・ミードにおける科学と実践一 発掘の衝撃  1 史実と解釈 2 「改革起源」の示唆  3 社会心理学の性格と課題 二 科学の方法 1 ミード科学論の性格  2 古代科学の世界像 3 目的論的世界像の批判  4 近代科学の世界像と、個人像の変容 5 実証主義と合理主義の批判 三 時間の構成  1 変わる過去  2 過去を方位づける現在  3 意味を創発させる現在 4 現在に対する解釈と制御にかかわる過去  四 むすびにかえて  1 プラグマディズム 2 テクノクラシー批判  3 行為の哲学  4 異なるパースペクティブの交差 第五章 都市社会学の原型 ― R・E・パークと人間生態学 ― 一 シカゴ・ソシオロジー再考の文脈  1 再考の文脈  2 シカゴ・パラダイムの相対化  3 パークへのまなざし 二 シカゴ学派の制度的文脈とパークの人間生態学 1 アカデミック・ソシオロジーの制度化  2 歴史学派の末裔としてのパーク  3 パークと人間生態学  三 コーポレイト・リベラリズムと〈臨床社会学〉の間  1 コーポレイト・リベラリズムと「衝撃都市」の社会学 2 〈臨床社会学〉としてのシカゴ・ソシオロジー  四 シカゴ・ソシオロジーは〈統合の社会学〉か?  二部 シカゴ学派モノグラフの世界 第六章 シカゴ・スタイル― シカゴ学派の調査法 ―  一 パークとシカゴ学派  二 シカゴ・モノグラフの誕生  三 シカゴ・モノグラフの一例 ―『タクシー・ダンスホール』― 四 調査法としての参与観察  五 エスノグラフィー法 ―― 多角的方法――  六 おわりに ――多角的方法のさらなる展開―― 第七章 社会的世界と「社会解体」  一 「社会解体」概念の変遷 1 社会の変動過程を把握する概念―『ポーランド農民』における社会解体 ―  2 新たな集団の創発の契機としての社会解体―スラッシャー『ギャング』 ―  3 地域社会の「凝離」を象徴する概念としての社会解体― ゾーボー『ゴールド・コースとスラム』―  三 科学的概念への変質  1 コミュニティの非行率の差異を説明する理論的視点としての社会解体―ショウ他『非行地帯』(一九二九)とショウとマッケイ『少年非行と都市地域』(一九四二)―  2 ショウ以降の社会解体の研究  四 「社会解体」概念の意義  第八章 クリフォード・ショウの非行研究  一 社会過程からみた非行現象  1 逸脱行為への関与  (1) 遊びとしての逸脱行為  (2) 問題状況の解決手段としての 逸脱行為  (3) 自尊心の回復手段としての逸脱行為  2 逸脱の継続・深化  (1) 日常化した態度としての逸脱行為   (2) 問題状況の解決の 手段としての逸脱行為  (3) 将来のモデル像に接近する上で当然なされるものとしての逸脱行為  二 非行現象がもたらされる社会構造  1 シカゴにおける少年非行の分布状況   2 シカゴの地域的特徴  三 都市コミュニティ全体における非行多発地域の位置   1 遵法的価値基準との関係によってもたらされる逸脱  2 親文化との関係によってもたらされる逸脱  四 おわりに ―クリフォード・ショウの非行研究の今日的意義 ―  第三部 シカゴ学派の背景・基盤第九章 一九二〇年代シカゴと都市的世界 吉原直樹  一 シカゴへ  二 言葉でつくられた街   三 アンダーグラウンド・パラダイス   四 痛む背中の街  五 「おれたちの世界」と「やつらの世界」   六 無宿者の港、そしてホボヘミア  七 ほんもののシカゴ     第十章 初期シカゴ学派とフィランソロピー  一 国家的背景と社会科学  二 地域社会とLCRC    1 改良運動の興隆  2 地域改良家と社会科学の協同 三 むすび 240

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