和算の成立

その光と陰

和算の成立

和算の飛躍的発展を可能にしたものは何か?

著者 鈴木 武雄
ジャンル 科学一般 > 数学
出版年月日 2004/07/15
ISBN 9784769909996
判型・ページ数 A5・250ページ
定価 本体4,500円+税
在庫 在庫あり

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和算の数学的側面を技術的に論じたものではない。平山諦著『和算の誕生』の考察を引き継ぎ,これまで謎に包まれてきた和算成立の過程を貴重な文献を基礎に明らかにする。それは鎖国政策下で,西洋の科学技術はどのように日本で摂取されていたのかという問題に突き当たる。これまでの江戸の歴史に新たな光が当てられる。


はじめに

 数学そのものが敬遠され気味の時代,和算史研究の意義が問われそうです.しかし,数学(和算も)は人類が生み出した貴重な文化遺産であり,その普遍性ゆえに異なる文化・文明,時代を超えた文化・文明の基底を形成しています.ピュタゴラスの定理の原型は古代バビロニアの粘土板に刻まれ,3,500年以上の歴史を誇っています.ピュタゴラスの定理は中国の古代数学より「句股法」(「句股弦(直角三角形)の理」)として非常によく知られ,和算でも必修のアイテムです.和算は主として中国や朝鮮を経由して日本へ入り江戸時代に独自の発達をしました.明治政府は学校教育にヨーロッパ数学を導入することを決定しました.その結果,和算は明治になって急速に衰退し消滅してしまいました.
 過去の遺物である和算,現代の数学に直結しない和算を,今さらとお思いでしょう.和算など紙魚と好事家の世界のようにお思いでしょう.本書は和算史を通して大航海時代が日本を中世から脱出させ,近世社会を創出し,さらに日本の近代を準備し明治への架け橋の土台となったことを明らかすることを大きな目標とします.
 特に本書の特徴は和算の数学的側面をテクニカルに論じるのではなく,その背景にある政治経済および社会文化と関連づけて考えることです.また,本書は和算のルーツが全て中国数学であるという通説に異議を申し立てた,平山諦先生の晩年の著作『和算の誕生』の続編とも言えます.それゆえ本書の書名を『和算の成立』としました.本書は時代的にも『和算の誕生』につづく時代を取り扱っています.さらに本書が『和算の誕生』の続編と自認することは「和算の誕生から成立」にあたってキリスト教文化を含むヨーロッパの数学・天文暦学・測量学などの影響を受けたことを明らかにすることです.16 世紀中葉から地理的にも大航海時代の先端に位置した日本への異なる文明の受容と衝突が創り出したものとして和算は大きくクローズアップされます.また,その受容と衝突の要因の根底に当時の大きな気候変動,社会変動,歴史的転換があったことも.
 和算史について無知であった私を導いてくださった平山諦先生に深く感謝申し上げます.私家版『和算の成立:上』だけは平山諦先生にお見せすることができたのも,せめてもの恩返しと思っています.本書を平山諦先生の御霊前に捧げます.
(中略)
 尚,本書の研究の一部は,平成10年度文部省科学研究費補助金(研究課題「東西文化史上における和算――和算史における西洋数学の影響について――」:課題番号10913013)の御援助をいただいています.

序  章 第 1 節 日本の伝統的な数学--和算(wasan)第 2 節 『和算の誕生』--平山諦(1904-1998)の遺したもの 第 3 節 『沈黙』の和算史--カギは『同文算指』 第 4 節 村瀬義益による飛躍と師礒村吉徳 第 5 節 関孝和の発見 第 6 節 陰の演出者--井上筑後守政重“知は力なり” 第 7 節 隠された建部賢弘の秘密 第 8 節 和算成立期の背景 第 1 章 独創の由来-村瀬義益と逐次近似法  第 1 節 前史-開平法および開立法 第 2 節 『新編諸算記』と『同文算指』 第 3 節 村瀬義益著『算法勿憚改』と『同文算指』 第 4 節 『算法勿憚改』の算題「爐縁太サ知事」 第 5 節 『算法勿憚改』の著者村瀬義益とは何者か 第 6 節 『算法勿憚改』にみる『同文算指』の影 第 7 節 礒村・村瀬方式の逐次近似法と連分数展開 第 2 章 奥州の仕置-二本松藩士磯村吉徳  第 1 節 村瀬義益の師礒村吉徳(磯村吉徳) 第 2 節 磯村吉徳の前半生 第 3 節 磯村吉徳と二本松藩丹羽家 第 4 節 二本松藩士としての磯村吉徳 第 5 節 加藤家とその二本松支配の終焉 第 6 節 伊達騒動-二本松藩の役割 第 7 節 丹羽家二本松藩の成立--捨て石 第 8 節 土木技術者磯村吉徳 第 9 節 近世日本の人口推移-17世紀に起こった人口爆発 第10節 まとめ-礒村吉徳の謎 第 3 章 “知は力なり”-井上政重の場合 第 1 節 井上政重と徳川幕府体制の成立 第 2 節 島原の乱(一揆)と井上政重 第 3 節 キリシタン宗門改奉行としての井上政重 第 4 節 外交および安全保障担当大目付としての井上政重 第 5 節 寛永の大飢饉と井上政重 第 6 節 井上政重と西洋学芸 第 7 節 キリシタン政策の転換-ユマニスト井上政重 第 8 節 井上政重の出自と周辺-謎の青年時代 第 9 節 まとめ-“知は力なり”-ベーコン的思想の体現者井上政重 第 4 章 謎の和算家 高原吉種 第 1 節 『荒木彦四郎村英先生茶談』と『算法闕疑抄』にある高原吉種 第 2 節 仮説「高原吉種は潜入宣教師ジュセッペ・キアラである」 第 3 節 イエズス会巡察師アントニオ・ルビノ神父の組織した日本潜入隊 第 4 節 潜入宣教師ジュセッペ・キアラ 第 5 節 クリストヴァン・フェレイラとその貢献 第 6 節 高原吉種とジュセッペ・キアラの動向 第 7 節 『算法闕疑抄』,『頭書算法闕疑抄』と『発微算法』出版のタイミング 第 8 節 イエズス会士ジュセッペ・キアラ(達)の学識 第 9 節 キアラ達ルビノ第 2 隊と井上政重 第10節 ルビノ第 2 隊・キアラ(達)と井上政重-科学技術研究のオルガナイザー 第11節 キアラ達・ルビノ第 2 隊の動静-海外へ流出した情報 第12節 切支丹屋敷-秘密の科学技術研究所 第13節 切支丹屋敷日記-残存する内部情報 第14節 岡本三右衛門(キアラ)の墓石-史実とは何か? 第15節 謎解き-総論-仮説の検証1:《高原吉種はキアラである》 第16節 謎解き-各論I-仮説の検証2:『算法勿憚改』の秘密 第17節 謎解き-各論II-仮説の検証3:『算法闕疑抄』の秘密 第18節 謎解き-各論III-仮説の検証4:オルガナイザー井上政重 第19節 岡本三右衛門(キアラ)を知る男--和算家本多利明 第20節 まとめ--謎の和算家高原吉種 第 5 章“算聖”関孝和-謎の生涯 第 1 節 関孝和,その謎の生涯 第 2 節 氏名の確定しない算聖 第 3 節 不可解な関孝和の父母の死と末弟永章の生年の矛盾 第 4 節 関孝和の兄弟たち 第 5 節 孝和の養家である関家の不思議 第 6 節 その後の関家と内山家 第 7 節 関孝和の著作『勿憚改答術』『括要算法』-“自由” 第 8 節 磯村吉徳・関孝和とキリシタン版モノグラム 第 9 節 『闕疑抄一百答術』の暗号-立天元一 第10節 関孝和と礒村吉徳-切支丹屋敷の研究 第11節 まとめ-“算聖”関孝和の誕生 第 6 章 改暦-武家未曾有の盛典 第 1 節 中国の天文・暦--国家的・公的な大事業 第 2 節 日本における改暦の動機 第 3 節 宣明暦と改暦 第 4 節 近世初頭より貞享暦までの天文暦書 第 5 節 徳川政権における年号と暦 第 6 節 朝鮮通信使と国書への年号と天文暦法 第 7 節 通信使の使命と朴安期(螺山)と岡野井玄貞,保井算哲(澁川春海) 第 8 節 西洋天文暦法の移入 第 9 節 中国における天文暦法の闘い 第10節 まとめ--改暦と徳川政権の安定化 第 7 章 暦算家関孝和-小日向科学技術研究所 第 1 節 暦算家関孝和 第 2 節 関孝和と小日向科学技術研究所 第 3 節 徳川幕府の情報機構と小日向科学技術研究所 第 4 節 西洋測量術の伝来と小日向科学技術研究所 第 5 節 『貞享暦』と関孝和 第 6 節 黄昏の小日向科学技術研究所 第 7 節 近世の人口爆発--小日向科学技術研究所 第 8 節 余録-碁師保井(安井)算哲から天文方澁川春海へ 第 8 章 一生の奇会-白石・シドティ・賢弘 第 1 節 新井白石とシドティとの出会い 第 2 節 シドティの学識 第 3 節 新井白石の知り得た情報-西洋科学書漢訳本への接近 第 4 節 新井白石と建部賢弘-奇怪な沈黙 第 5 節 シドティと建部賢弘-隠された一生の奇会 第 6 節 建部賢弘の奇妙な転居 第 7 節 建部賢弘後半生の累進 第 8 節 累進の姿-建部賢弘宛の田沼主殿頭意行書状 第 9 節 疑惑の大飛躍-建部賢弘の業績の検証 第10節 『綴術算経』に見える建部賢弘の心理と数学思想 第11節 建部賢弘の性格形成-生育歴と発達心理的な分析 第12節 建部兄弟と関孝和-小日向科学技術研究所 第13節 まとめ-建部賢弘とその時代 第 9 章 和算史の光と陰 第 1 節 歴史とは何か-「歴史的真実」とは 第 2 節 「和算正史」考 第 3 節 『徳川実記』の成立 第 4 節 『徳川実記』に現れた和算家・暦算家--関孝和は? 第 5 節 『徳川実記』-関孝和の実家内山家の人々 第 6 節 『徳川実記』-内山庄左衛門と関新七 第 7 節 『徳川実記』-建部賢弘の場合 第 8 節 『徳川実記』に記された関孝和の養子-関新七(新七郎) 第 9 節 建部賢弘と関新七(新七郎)-本多利明の知り得たこと 第10節 キアラの真相と建部賢弘の秘密-本多利明著『交易論』 第11節 「落書」とは-裏側からの歴史 第12節 落書は語る-建部賢弘のある実像 第13節 「落書」と関孝和 第14節 「宝永落書」-内山七兵衛の役割 第15節 田沼主殿頭意行という人物-将軍吉宗の側近 第16節 建部賢弘宛の田沼意行の書状 第17節 建部賢弘の累進過程-将軍吉宗の意向は? 第18節 まとめ(234)

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