干潟造成法

環境配慮・地域特性を生かした

干潟造成法
著者 中村 充 編著
石川 公敏 編著
日野 明徳
ジャンル 海洋学・環境科学 > 環境
出版年月日 2007/03/20
ISBN 9784769910602
判型・ページ数 B5・160ページ
定価 本体3,000円+税
在庫 在庫あり

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消滅しつつある生物の宝庫干潟をいかに創り出すか。これは現在大きな問題となり、種々取り組みが開始されている。本書は、人工干潟の造成のしかたを、企画の立案・目標の設定・環境への配慮・住民との関係、具体的な造成の手順などと分かり易く解説したマニュアル書である。既に造成されている干潟造成の事例(東京湾・三河湾・英虞湾など)を挙げ何に注意を払うべきかなど貴重な意見が述べられる。また重要な点をポイント欄で解説し使いやすくした。


はじめに

 瀬戸内海は,古来より,世界にも類い稀な,自然豊かで美しい海であった.瀬戸と灘,多くの小島,風光明媚で多様な環境に基づく豊かな自然と生物多様性,海の幸に育まれた人の営み,これらの豊かさは,自然と人の営みが,長い年月をかけて,歴史的に文化的に形づくってきたものである.
 しかし,この世界に誇るべき瀬戸内海の美しさと稀に見る豊かさは,戦後50年の間に,高度成長による経済発展と引き換えに大きく損なわれ,昔から育まれてきた海と人との関わり方も大きく変化した.かつて,どこにでもあった身近で親しみやすい自然の海辺や干潟は,今や,見る影もなく衰退した.
 1960年代の後半に入り,瀬戸内海の大きな変化に危惧を感じた沿岸の住民や行政,そして学識者,国は,その対策に,様々な制度的,技術的方策を先駆的に取り入れていった.その中でも特筆すべきは,1973年に制定された「瀬戸内海環境保全臨時(特別)措置法」である.この法律は,瀬戸内海沿岸の多くの住民の要請にこたえて,それまでにはなかった地域のみを対象とする法律であり,政府提案ではなく,議員提案という当時稀な手法により制定されたものである.この通称「瀬戸内法」は,水質汚濁負荷を総量で規制したり,埋め立ての原則禁止といったユニークな手法により,「瀕死の海」といわれた瀬戸内海の水質汚染の救済には大きな役割を果たした.
 しかし,この大きな役割を果たした「瀬戸内法」が,制定後30数年を経て,時代の大きな変化と新たな課題に対応できにくくなってきたのも事実である.もともと,瀬戸内海は,漁業生産には極めて効率のよい海洋学的な環境特性と生態系構造をもつ豊かな海であるばかりか,周辺に多くの人々が暮らし,いろいろな産業が栄え,歴史的に形成されてきた微妙なバランスの中で自然と生活が調和してきた海である.この人間生活と自然のバランスが,急速な産業の発展と過度な利便性の追及により破壊され,もはや従来型の手法では自然と人間活動のバランスを維持できなくなっている.
 今,私たちは,瀬戸内海のみならず,すべての自然との付き合いの中で,新たな調和を維持する仕組みを見出してゆく必要に迫られている.瀬戸内海の分野横断的な学際的研究集団である「瀬戸内海研究会議」では,瀬戸内海沿岸の府県市などで構成する「瀬戸内海環境保全知事・市長会議」からの要請を受けて,新たな瀬戸内海再生方策を検討し,平成17年5月にその提言書の報告を行った.また,同年末には,公開のワークショップを開催し,その提言の考え方を広く世に問いかけた.
 この提言書の基幹となる考え方が,「瀬戸内海を豊かな里海(さとうみ)にしていく」ことであり,目指すべき「里海」の基本理念が,人と海との新しい共生のあり方,人の自然への関わり方を示している.この新しい関わり方のポイントは,「最小限の人の手を加え続けることによって,高いレベルでの生物生産性と生物多様性を維持していくこと」であると考えている.高い生物多様性と生産性を維持している海は,当然のことながら,環境もよく,赤潮や貧酸素水塊も発生しにくい海であり,海の幸も豊かで,さまざまな恵みを将来的に享受できる海でもある.

 したがって,この「里海」論は,単なる技術論やシステム論ではなく,「多くの人々が身近な海とさまざまな形で関わり,保全しながら利用する,あるいは,楽しみながら新しい地元の海を再構築していく,さらには沿岸の人々,産業,行政が,手を携えて参画し,それぞれの主体が協働しながら活動を進めてゆく」という運動論でもある.
 目指すべき「里海」を実現していくためには,瀬戸内海の物質循環を定量的に明らかにし,滑らかな物質循環と豊かな生態系を育む,自然再生,漁業資源の回復といった具体的な施策を実現し,山から川を経て海に至る環境と資源の一体的管理を行う必要がある.また,これらの施策を進めるためには,新しい沿岸の管理制度の導入,多様な人々とグループの協働的参画,地域振興やそれを支える環境教育などのソフト的施策を視野に入れた包括的なアプローチも重要である.このような包括的アプローチは,従来型の日本的縦割り行政にはなじみにくいため,その実現は容易でなく,その意味では長期的展望と粘り強い活動が必要な大きなチャレンジでもある.
 提言書に取りまとめた内容では,まだまだ十分ではないため,さらに議論を深化させ,問題をより深く追及してゆく必要性を感じて,今回,本書を発刊することとなった次第である.環境に配慮した持続性の高い瀬戸内海圏と多面的機能を活かした水産業の再構築を図りながら,生物多様性の回復や流域の包括的管理を目指す新たな瀬戸内海再生方策を,瀬戸内海の再生へ向けた一石として投じたい.多くの読者の皆さんが関心を持ち,瀬戸内海の各地で,地域の海の再生に向けた地域共生と環境共生のための新たな動きが同時多発的に起こされることを期待してやまない.

序 章 干潟の役割と機能 1 干潟・浅場の発達と働きの多元的機能 1・1 生物活動 1・2 好気的環境と嫌気的環境 2 干潟・浅場を造る 2・1 干潟・浅場の管理 2・2 アメニティ環境 第1章 干潟・浅場の基礎知識 1 干潟・浅場の物理的機能 1・1 干潟の発達,形成機構 1・2 干潟の水理 1・3 干潟の造成のために 2 干潟の生物生産機能 2・1 干潟の環境変動 2・2 干潟の堆積物の環境 3 生態系の保全・創造 3・1 水圏生態系の特徴と干潟生態系 3・2 干潟における生物多様性の保全 3・3 干潟による他の生態系の保全と創造 4 干潟域の水質浄化機能 4・1 水質浄化機能の評価手法 4・2 海域により異なる水質浄化機能 4・3 水質浄化機能の事例紹介 5 アメニティ機能 5・1 景観,磯の香り 5・2 ふれあいの場 第2章 干潟の造成 1 事前の考慮 1・1 系の大きさ(時間と空間) 1・2 生物多様性 1・3 環境への配慮 2 総合計画(設計・計画 2・1 干潟造成の目標の設定 2・2 造成の手順 2・3 干潟の管理 3 機能評価法 3・1 環境機能評価法 3・2 生物機能評価法 第3章 干潟造成の事例 1 東京湾:東京湾再生行動計画と干潟再生の具体化の検討事例 1・1 東京湾における干潟再生の上位計画としての東京湾再生行動計画 1・2 干潟再生の具体化の検討事例(東京湾奥部環境創造事業技術検討会の試み) 2 三河湾:干潟域の水質浄化を活かす造成手法 2・1 三河湾とは 2・2 修復の背景(水質悪化のスパイラル) 2・3 干潟・浅場の修復 2・4 修復に関する今後の課題 3 英虞湾:浚渫ヘドロを用いた干潟再生実験 3・1 英虞湾再生プロジェクトの経緯 3・2 小規模干潟再生実験 3・3 大規模干潟再生実験 3・4 事後モニタリング 3・5 干潟造成技術の課題 4 アサリ増殖場造成 4・1 計画手法の概要 4・2 土木的増殖手法の選定 4・3 造成施設および工法の選定 4・4 造成による物理環境変化の予測 4・5 アサリ造成漁場の管理 <ポイントの目次> 光合成 食物連鎖 プランクトンの増殖 人工干潟の例 酸化還元電位 干潟のベントスの成帯構造 干潟の栄養型 生態系のサブシステム 生物多様性 浄化機能の定義 景観評価法 干潟造成と参加型アセスメント 地域づくり ミチゲーションとリストレーション 絶対的な目標相対的な目標

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