海の環境微生物学

海の環境微生物学

海洋微生物の役割を平易に解説したテキスト

著者 石田 祐三郎 編著
杉田 治男 編著
藤井 建夫
ジャンル 海洋生物学 > 生物学一般
出版年月日 2011/03/25
ISBN 9784769912422
判型・ページ数 A5・264ページ
定価 本体2,800円+税
在庫 在庫あり

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はじめに

 「海が汚れている」といわれて久しい.わが国では,第2次世界大戦後,経済の復興を優先したがゆえに,急速な人口増に伴う生活排水の増加が海の微生物による浄化能の限界を遥に越え,富栄養化が進行した.その結果,1960年代後半から赤潮が頻発し,甚大な漁業被害を被るに至った.また,それ以前から海でも深刻な問題が湧出していた.それは,様々な製造業の工場から排出された廃水である.水俣病の原因となる有機水銀をはじめ,イタイイタイ病のカドミウムなどの重金属汚染,家庭排水が主な合成洗剤問題,タンカーからの石油流出,さらには,今日「環境ホルモン(内分泌撹乱物質)」と称される農薬のDDTや工業製品のPCBなどとそれらの副産物であるダイオキシン類といった人工有機化合物による被害が深刻となり,経済よりも環境重視の傾向が世界的な広がりを示すまでになった.

 このような深刻な海の環境に対して,海の生物生産の基幹を成す海洋微生物(主に,海洋細菌と微細藻類)は如何なる役割を担い,対処しているのか.その質問に対して,日常的に海洋微生物に親しんでいる我々は,解りやすい回答をする責任がある.また,そのことによって,海の物質の動きとそこに関わる海洋微生物の挙動,さらには,人為的に微生物の作用を拡大した環境修復(バイオレメディエーション)などについて一般の理解が深められ,この分野の発展に大いに寄与するものと期待される.その手段の1つとして,この度,大学生を対象としたテキストを作成し,彼らの理解を深めることからスタートした. また,微生物名の表示は,しばしば,本書を読むに当たって難解との誤解を招く恐れが有ったが,属から種レベルで考えなければならない箇所が多く,結局,学名の後にカナまたは和名をいれ,カナ表示はなるべく英語読みとした.

 なお,本書は,2000年春に出版した「海洋環境アセスメントのための微生物実験法」(恒星社厚生閣)と対を成すように執筆されたものである.さらに私見を挟むなら,2001年に編者の1人によって執筆された「海洋微生物の分子生態学入門」(培風館)は多少の偏見はあるが,併用されることにより,本書の理解の助けになるだろう. (以下省略)

 

増補・改訂版の出版に際して
 本書が出版されたのは西暦2005年6月である。その前後から細菌や古細菌の遺伝子を用いた系統分類、すなわち、分子分類が、他の分類指標が不明確であったことも手伝って,まず、細菌の分類体系にいち早く導入され、古細菌がこれに続いた.今では「属」や「種」レベルの近縁な細菌種間の系統関係だけではなく,それ以上の「門」や「綱」にいたる上位の分類階級まで細菌の系統関係を論じることができるようになった.古細菌では、最近、熱水環境以外の世界中の海水や海底堆積物に広く分布する常温性の古細菌等も明らかになってきた。 そこで、細菌と古細菌の分子分類を新たに1章の1・2に加え「細菌の分子分類」を(4)に、「古細菌の分子分類」を(5)として解説した。この分野は日進月歩で、ゲノムプールを直接解析する「メタゲノム解析」も有力な手法として加えた。その上、海洋には未だに「培養できない細菌や古細菌」が数多く存在し、それらのゲノム情報はデーターベースに日々蓄積されている。  この現状をふまえて、ここに「微生物の分子分類」を増補した。

1章 環境微生物学の基礎  0.序 説  1.微生物の種類と生物界における位置 1・1 微生物の種類 1・2 細菌および古細菌 1・3 ウイルス(ファージ) 1・4 酵母およびカビ 1・5 微細藻類  1・6 藍藻と原核緑藻  2.環境微生物の性質 2・1 微生物の増殖  2・2 温 度  2・3 塩 分  2・4 酸 素 2・5 pH  2・6 浸透圧  2・7 栄養と代謝 2章 海洋の生物環境における微生物の役割 0.序 説 1.海洋の非生物的環境  1・1 光  1・2 温 度 1・3 塩 分  1・4 圧 力  2.海洋の生物群集と生物生産  2・1 海洋の生物群集  2・2 海洋生態系における微細藻類の役割 2・3 海洋生態系における微生物(細菌とウイルス)の役割  3.海洋における物質循環に関わる微生物 3・1 海洋の物質循環  3・2 炭素循環と微生物の代謝 3・3 窒素循環と微生物の代謝 3・4 リン循環と微生物の代謝 3・5 硫黄循環と細菌の代謝  3章 特定環境における海洋微生物の役割  0.序 説  1.海洋熱水環境における超好熱菌の役割  1・1 海洋熱水環境 1・2 海底熱水孔における超好熱菌の多様性と役割  1・3 超好熱菌の全ゲノム解析と遺伝子資源の開発利用 2.深海における好圧性微生物の役割 2・1 好圧性微生物の発見 2・2 好圧性微生物の分子生物学的展開  2・3 Shewanella violaceaゲノム解析から見えてきた有用酵素  2・4 好圧性微生物による汚染除去の可能性 3.外洋環境における低栄養細菌の特性と役割  3・1 外洋の有機物  3・2 浮遊生活と付着生活  3・3 低栄養細菌の少ないゲノムDNA 3・4 基質特異性が低く基質親和性の高い取り込み系  4.海洋におけるVBNC(生きているが培養できない) 細菌の存在 4・1 生菌数と総菌数の相違 4・2 天然海水を通常の生息域とする海洋細菌  4・3 病原性海洋細菌の天然海水中におけるVBNC状態  4章 海の富栄養化の現状 0.序 説 1.有害・有毒赤潮と漁業被害  1・1 有害・有毒赤潮のタイプ  1・2 有害赤潮と漁業被害 1・3 有毒赤潮と漁業被害  2.貧酸素海域と漁業被害 2・1 なぜ貧酸素化するのか 2・2 貧酸素化がもたらす悪影響  2・3 貧酸素化による漁業への影響  3.養魚場の自家汚染  3・1 自家汚染とは 3・2 有機物汚染 3・3 抗生物質汚染 4.磯焼けの現状  4・1 磯焼けの定義  4・2 藻場の生産力 4・3 磯焼けの発生海域  4・4 磯焼けの発生原因  4・5 富栄養化との関係  4・6 磯焼け対策 5.サンゴ礁の破壊  5・1 造礁サンゴの周辺環境 5・2 造礁サンゴの形態 5・3 造礁サンゴに共生する褐虫藻 5・4 造礁サンゴの増殖環境 5・5 褐虫藻の分類的位置  5・6 宿主による褐虫藻の選択性に関する実験 5・7 褐虫藻以外の共生藻の存在 5・8 サンゴ礁の石灰化と褐虫藻 5・9 造礁サンゴの白化現象  6.沿岸水域における衛生細菌の生態-腸炎ビブリオを中心に- 6・1 腸炎ビブリオ食中毒  6・2 毒素遺伝子の水平伝播 6・3 単一のクローンによる世界的流行 6・4 遺伝子を用いた同定 7.養魚場における魚病細菌の生態と防除  7・1 魚類の病原菌 7・2 バイオコントロール法  7・3 プロバイオティックス  5章 人工有機化合物による海洋汚染の現状と水生生物への影響  0.序説  1.有機塩素化合物などの難分解性有機物による 汚染とその生態影響 1・1 有機塩素化合物 1・2 水界の有機塩素化合物汚染  1・3 内湾のプランクトン中の有機塩素化合物 1・4 アジア,太平洋海域におけるムラサキイガイやカツオにおける有機塩素化合物の蓄積  1・5 海産哺乳類における有機塩素化合物の蓄積  1・6 内分泌攪乱物質(環境ホルモン) 2.重金属汚染とその被害  2・1 環境問題としての重金属 2・2 海の重金属汚染  3.石油汚染の現状と被害  3・1 世界および日本における石油汚染 3・2 流出油の分散過程  3・3 流出油による被害と事故からの回復過程 6章 海洋環境の保全のための微生物による環境修復 0.序 説  1.微生物による赤潮の除去 1・1 赤潮の除去  1・2 細菌による殺藻  1・3 赤潮藻に感染するウイルス 1・4 珪藻類による赤潮制御  2.人工有機化合物の分解 2・1 人工有機化合物 2・2 有機リン化合物の分解  2・3 有機スズ化合物の分解

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