発電所海水設備の汚損対策ハンドブック

発電所海水設備の汚損対策ハンドブック

発電所の海水設備の管理、保守対策を解説

著者 火力原子力発電技術協会
船橋 信之 編著
勝山 一朗 編著
ジャンル 海洋学・環境科学 > 環境
出版年月日 2014/10/20
ISBN 9784769914839
判型・ページ数 B5・384ページ
定価 本体7,000円+税
在庫 在庫あり

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本書は発電所の海水設備の管理、保守に係わる事柄を中心に、現場で使用しやすいハンドブックとして企画された。内容は現場の設備構成から汚損生物の基礎、汚損対策の最新技術と幅広く、また図を多数配置しわかりやすく解説。汚損生物研究者、汚損対策に関わっている技術者など専門家が総力を挙げて制作。関係者必携の書。


はじめに

平野禮次郎先生の思い出とともに

  研究室で、また現場で防汚業務に取り組まれている方々のなかには、本書を手にされて故東京大学名誉教授平野禮次郎先生(平成25年7月1日ご逝去)のお名前を思い浮かべる方も多いことと存じます。私自身は付着生物研究を勧められることは無かったのですが、先生が助教授になられて初めての卒論生、大学院生として動物プランクトン研究のご指導を受け、さらに水産増殖学講座および水産海洋学講座では教官としてお仕えするという栄誉に浴することができました。先生のもとでは、自分の専門以外の多くをお手伝いする機会をいただきましたが、今また、本来であれば先生ご自身が率先してお書きになったであろう推薦文執筆の機会をいただき、最後のお手伝いかと感無量でございます。
 私どもが学生であった昭和40年前後は、付着生物の問題と言えば、船底付着のほかは生け簀など養殖施設の海水交換阻害が語られるくらいで、「日本海海戦で我が国が世界最強のバルチック艦隊を撃滅できたのは、北海からの長旅で彼らの船に付着したフジツボのおかげだ」という、平野先生の無脊椎動物学講義の名調子も思い出されます。当時の対策は単純に「とにかく掻き落とす、塗料を塗る」という力業でしたが、かたや先生ご自身は、終戦間もない時代の卒論研究でそれまで困難とされてきたフジツボ類幼生の飼育を成功に導き、代表種についてノウプリウス期での検索表を作成しているなど、現在の防汚研究の王道でもある“生物種ごとの生態に基づいた基礎研究と応用研究”の先駆けとなっていらっしゃいます。のちに我が国は高度成長期を迎えるのですが、その原動力となった発電産業の方々が頻繁に来訪されるようになったのも、復水器冷却水などの水路、配管の閉塞が深刻になってきたことと、先生のご名声を聞きつけてのことだったのでしょう。やがて昭和50年代に入ると、学内では研究テーマとして付着生物を選択する学生も増え、大学の同級であった梶原武先生(東大海洋研究所名誉教授・故人)等とともに日本付着生物学会を創設するに至ります。
 先生は、基礎科学としても緻密な研究をされる方でしたが、実はそのポリシーは「研究のための研究をしないこと」、「社会のための出口を持った研究をする」で、事実、防汚研究に携わる方々とご一緒の時、また現場をお尋ねする出張などでは、日頃物静かな先生がいかにも楽しそうに振る舞われるのを目の当たりにすることができました。本書を通覧いたしますと、先生が直接に、また間接にお育てになった多くの弟子諸氏が執筆されているのに気づきますが、その方々が皆「社会のための出口を目指して」お仕事をされている様子が目に浮かぶように感じます。それが故に本書が、海洋生物研究に携わる者にとっては防汚という現実の技術開発にどう係わるか、また対象とするプラントはどのようなものであるかを知る、一方、技術者にとっては自然の生態系や付着生物とはどういうものかを知る良い手引き書となるに違いありません。防汚研究の先達であり、このハンドブックの刊行を心からお慶びになったであろう平野先生のお姿、お志を思い浮かべつつ本書をご推薦申し上げます。
 
                                               東京大学名誉教授 日野明徳


 一般社団法人火力原子力発電技術協会には、同じ課題を持つ会員同士が集まって情報交換や勉強会などを行う研究会が幾つかある。その中で最初に活動を開始したのが今回、このハンドブックを作成した「海生生物対策研究会」である。協会の研究会活動には多様なメリットがるが、どの研究会にも共通しているのが多様な企業・団体にわたるネットワークの構築である。海生生物研究会においても、海生生物の研究者、防汚対策技術や周辺技術の開発者、そして火力や原子力の発電所で海水設備の保守管理に携わる実務者といった幅広いネットワークが構築された。
 数年にわたる活動を経て、海生生物対策研究会では「もっと現場の方々に役立つ情報提供ができないか」との思いから、幅広いネットワークを活かし、事業用から自家用に至る海水冷却を利用している発電所で設備の保守管理に携わっている現場技術者のためのハンドブックを作成することとした。
 ハンドブックの作成にあたっては、海生生物対策研究会のメンバーを中心に付着生物研究の専門家から付着防止技術の開発や設備を維持管理するための分析機器等の開発などに携わる技術者、実際に設備を保守管理する現場の技術者など、それぞれの部門第一線で活躍している専門家が執筆を担当し、基礎知識から新技術や応用技術の実用事例に加え、開発を終えて適用箇所を模索している最新技術まで掲載するなど、充実した内容のハンドブックとすることができた。
 多方面からの切り口を持つこのハンドブックは、1章から順に読んで頂いても、また、実務の中で疑問に思った事や調べたい事を辞書的に特定の章・項を読んで頂いても良いように構成した。

 発電所の海水設備の保守管理は大変地味な仕事であるが、発電プラントの効率から周辺地域の環境や廃棄物問題など多様な課題を抱えており、発電所を運営する上では重要な仕事の一つである。地味ではあるが重要な海水設備の保守管理を担う現場技術者の方々に対して、その日常業務をサポートする目的で作成したのがハンドブックである。このハンドブックが常に現場事務所の担当者の机の上に置かれ、時には設備の保守管理作業の現場に携帯され、代々の実務者に引き継がれて使用され、多くの手垢でぼろぼろになるまで読まれることを期待している。

平成26年6月
                           一般社団法人 火力原子力発電技術協会 会長 伴 鋼造

平野禮次郎先生の思い出とともに(日野明徳)
はじめに(伴 鋼造)

1章 発電所の海水設備
 1・1 発電所の仕組みと海水の利用(船橋信之)
 1・2 発電所の海水設備(船橋信之)
 1・3 取水設備(船橋信之)
 1・4 復水器などの熱交換器と周辺設備(船橋信之)
 1・5 放水設備(船橋信之)

2章 海 水
 2・1 海水の性状(長谷川一幸)
 2・2 海水温(長谷川一幸)
 2・3 海水の流動(長谷川一幸)

3章 海生生物
 3・1 海生生物の基礎知識(野方靖行)
 3・2 海生生物の地域特性(野方靖行)
 3・3 生物皮膜(勝山一朗・山下桂司)
 3・4 海藻類(松本正喜)
 3・5 イガイ類(渡邉幸彦・野方靖行)
 3・6 カキ類(渡邉幸彦)
 3・7 フジツボ類(野方靖行)
 3・8 ヒドロ虫類(山下桂司)
 3・9 その他大型付着生物(野方靖行)
 3・10 クラゲ類(濱田 稔)
 3・11 サルパ類(飯淵敏夫)
 3・12 動植物プランクトン(飯淵敏夫)

4章 発電所海水設備の運用と管理
 4・1 海水設備の保守管理技術の歴史(神庭 恵・原 猛也)
 4・2 海水冷却水系統における生物汚損対策設備の概要(杉本正昭・藤田義彦)
 4・3 海生生物による海水冷却水設備の障害と対策(杉本正昭・藤田義彦)
 4・4 海水設備の保守・管理の概要(杉本正昭・藤田義彦・船橋信之)

5章 海生生物対策技術(防汚対策)
 5・1 防汚対策の基礎知識(勝山一朗)
 5・2 防汚塗料(藤井忠彦・吉田太佳司)
 5・3 塩素注入(原 猛也・勝山一朗)
 5・4 塩素注入の運用管理(島田 繁)
 5・5 塩素以外の酸化剤(松本智彦・勝本 暁)
 5・6 その他の薬剤(古田岳志)
 5・7 スポンジボール・ブラシ打ち(杉本正昭)
 5・8 除貝装置(尾谷克芳)
 5・9 電気防汚(大庭忠彦)
 5・10 流速や水温度による付着防止(坂口 勇・野方靖行)
 5・11 汚損生物幼生の検出方法(野方靖行)
 5・12 研究段階の技術(野方靖行)
 5・13 海生生物廃棄物の処理・再利用技術(坂口 勇・野方靖行)

6章 対策の評価
 6・1 対策の評価における基礎知識(勝山一朗・小林聖治)
 6・2 防汚剤・防汚塗料などのスクリーニング方法(勝山一朗・小林聖治)
 6・3 モデルコンデンサ・実機を用いた試験方法(勝山一朗・山下桂司・小林聖治)
 6・4 実機運転データからわかること(定道有頂・山下桂司・勝山一朗)

7章 環境への配慮の考え方
 7・1 冷却水の取水連行と温排水(原 猛也)
 7・2 化学物質使用における責務(石黒秀典)
 7・3 化学物質のリスク評価と管理(原 猛也・眞道幸司)
 7・4 化学物質の生物に対する毒性の試験法(眞道幸司)
 7・5 水環境中濃度の推定(眞道幸司)
 7・6 生態影響リスクの推定方法(眞道幸司)
 7・7 化学物質による生物影響の総合的評価(鈴木あや子)
 7・8 水質に関わる基準設定(眞藤幸司)

8章 関係法令
 8・1 関連法令の基礎知識(原 猛也)
 8・2 環境影響評価法(品川高儀・鈴木崇行・鈴木聡司)
 8・3 水質汚濁防止法(古田岳志)
 8・4 産業廃棄物処理法(石黒秀典)
 8・5 化学物質関連法(石黒秀典)

9章 対策技術の実用事例と開発事例の紹介
 9・1 クラゲ対策① クラゲ洋上処理(東北電力(株))
 9・2 クラゲ対策② クラゲなど海生生物流入対策(北陸電力(株))
 9・3 クラゲ対策③ クラゲ減容化技術(関西電力(株))
 9・4 クラゲ対策④ クラゲ監視システム(四国電力(株))
 9・5 クラゲ対策⑤  クラゲなど対策のための取水槽塵芥ピット(沖縄電力(株))
 9・6 付着生物のモニタリング技術(中国電力(株))
 9・7 付着防止技術① 高機能清掃ロボット(中部電力(株))
 9・8 付着防止技術② 海水電解装置(相馬共同火力発電(株))
 9・9 付着防止技術③ 防汚パネル(1)取水路への設置(東京電力(株))
 9・10 付着防止技術④ 防汚パネル(2) 取水管への設置(電源開発(株))
 9・11 付着防止技術⑤ マイクロバブルによる付着抑制 (関西電力(株))
 9・12 コンポスト化処理(北海道電力(株))
 9・13 海外の事例(小林聖治・原 猛也)

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