162 市民参加による浅場の順応的管理

162 市民参加による浅場の順応的管理

市民参加もふまえ漁場づくりの新手順を概説

著者 瀬戸 雅文 編著
松田 裕之
工藤 孝浩
ジャンル 水産学 > 水産学シリーズ
海洋学・環境科学 > 環境
シリーズ 水産学シリーズ
出版年月日 2009/10/05
ISBN 9784769912040
判型・ページ数 A5・162ページ
定価 本体2,900円+税
在庫 在庫あり

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漁場環境の変動性や、生態系の複雑性、さらに漁業者減少や高齢化、市民の環境保全に対する意識の高揚など、浅場の環境を取り巻く様々な変化を前提とした漁場づくりの基本手順を概説したはじめての書。


はじめに

 太陽光が海底まで届き,光合成による基礎生産が活発に行われている,概ね水深10mまでの海域を,本書では浅場と称する.浅場は,潮干狩りやダイビングなどで市民が海と身近に接する親水域であるとともに,磯根資源や二枚貝資源の漁場として,さらには沿岸域に生息する多くの生物のゆりかごとして海の豊かさを支える重要な役割を果たしている.浅場では,古来より竹ひびに付着した稚ガキを干潟に蒔いたり,砂面に小石を並べてカキ幼生を着生させたり,投石によるコンブの増産など,海の営みに着想した独創的な生物生産法が試行されてきた.この浅場と日々対話しながら,その変化に応じて技法を改良する中で,現代にも通じる水産増養殖技術の礎が築かれてきた.海の神秘を崇拝しながら収穫された海の恵みを余すことなく利用する,わが国 固有の魚食文化もこの浅場を利用する営みと一体化する過程で形成され深化したものであろう.
浅場は,戦後の高度経済成長の陰で,工業用地などの産業拠点,港湾などの物流拠点,さらに都会では,ウォーターフロント開発の振興とともに商業地や文化施設・住宅地などに変貌し,魚食文化の発信地であった漁村集落は次々と姿を消した.近代的な社会活動の実現に向けて海岸線は人工構造物で防護され,防災,環境,交通,都市施設などの諸課題を着実に解決する中で土木工学技術は飛躍的な進化を遂げた.1952年に発足した浅海増殖開発事業より始まる一連の漁場造成事業は,土木工学技術を基礎として独自の進化を遂げながら全国各地で浅場の造成や修復に寄与してきた.
 現在,水産土木技術の進展とは裏腹に,浅場から多くの生物が姿を消した.沿岸漁業の衰退につれて,それに伴う魚食文化も陰を潜め,特に若年層を中心に魚離れが急速に進行している.先人にとっては偉大なる海も,現代の物質文明がもたらした大量生産・大量消費型社会おいては決して計り知れない存在ではなくなった.海にも,地域固有の自然環境に応じて生物を養うことができる限界が存在する.幼稚魚の保育場を破壊したり,再生限界を超える水産物を漁獲したり,あるいは収容限界を大幅に上回る水産生物を放流したり増殖しようとすれば,やがて海のバランスは崩壊し,海の幸も姿を消してしまう.さらに近年,海の環境収容力が人為関与に関わらず長期的,不確実的に大きく変動することがわかってきた.
  不確実的に変動する環境収容力に順応しながら漁場造成や環境修復を実現するための考え方は,予め人為的に設定された社会目標の実現に向けて産業・物流・生活拠点を整備する目標達成型の技術体系とは本質的に異なっている.先人が崇拝した海の神秘は,不確実的な変動性として蘇り,現代の科学に恒久的な難題を投げかけている.
 社会経済が成長型から安定・成熟型に転換し,生活の利便性にも増して自然環境の有限性に対する国民の危機意識は確実に変化しはじめている.時代が大きな変曲点にあることを基本認識として,今一度,先人の教えに耳を傾け,浅場を通して海の神秘を見つめ直し,海の変化を日々確かめながら,海の恵みを育て収穫するための科学技術を涵養させる時代が到来している.
 本書では,まず,浅場の環境変動や生態系の複雑性に加えて,漁業者の減少や高齢化,市民の環境保全に対する意識の高揚など,浅場の環境を取り巻く環境や社会情勢の様々な変化を前提とした「浅場づくり」の考え方について概説する.続いて,市民と漁業がうまく連携しながら本来の浅場を取り戻すために必要となる合意形成のプロセスや環境モニタリングのあり方について,さきがけ的な実例を交えながら改善策や問題点を抽出し,浅場における順応的管理の将来像を洞察する.

 

Ⅰ.浅場の環境と管理
1章 浅場の変動性に応じた漁場の造成と管理(瀬戸雅文)
2章 順応的管理の理念と生態系管理の課題(松田裕之・佐々木茂樹)
3章 生態系の連続性を考慮した浅場の再生(林 文慶・田中昌宏・高山百合子・片倉徳男)

Ⅱ.市民や漁業者との合意形成
4章 浅場造成における市民の参加プロセス(伊藤 靖)
5章 市民参加による海づくりの推進(工藤孝浩)
6章 水産業の公益性と市民・行政・漁業者の協働(清野聡子)

Ⅲ.順応的管理の実践と課題
7章 順応的にすすめる岩礁性生態系の修復と管理(綿貫 啓・桑原久実)
8章 市民と取り組む人工干潟の造成と管理(中瀬浩太・石橋克己・木村賢史)
9章 アマモ場を核とした浅場漁場の順応的管理(鳥井正也)

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