漁業資源の繁殖特性研究

飼育実験とバイオロギングの活用―水産学シリーズ175

漁業資源の繁殖特性研究

繁殖特性をいかした漁業資源の持続的利用

著者 栗田 豊
河邊 玲
松山 倫也
ジャンル 水産学 > 資源・漁業
水産学 > 水産学シリーズ
シリーズ 水産学シリーズ
出版年月日 2013/03/15
ISBN 9784769912989
判型・ページ数 A5・148ページ
定価 本体3,600円+税
在庫 在庫あり

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水産物の需要が高まるなか漁業資源の持続的利用は急務である。これまで生態研究は野外採集調査が中心だったが、昨今注目を集めるのが飼育実験やバイオロギング技術の活用だ。これらを併用・比較することで個体の繁殖特性や繁殖生態の環境応答といったこれまでの弱点を補えるかを検証し、新しい研究の創出をめざした意欲作。


はじめに

 水産物の需要が世界的に増加を続けるなか,漁業資源の持続的利用は人類に課せられた課題となっており,各国は,自国経済水域内の資源を適切に管理して利用することが義務付けられている.資源を管理するためには,その現状を知ること(資源評価)と,変動機構の理解に基づき漁獲量の上限値を設定すること(資源管理)が必要となる.日本における資源変動研究は,生活史初期の生態研究,および初期成長・生残に及ぼす環境や輸送の影響に関する研究が中心となっていた.一方,近年,親魚個体群の繁殖生態が加入に及ぼす影響が注目されてきている(1,3章).
 漁業資源の生態研究は,野外採集調査により得られた標本の解析が主体である.野外採集標本の解析は,限られた場所,時刻に,特定の漁具や採集具で採集された標本を用いることにより生じるバイアスを伴いやすい.つまり,採集標本が個体群の生物特性を代表していない可能性がある.対象生物の生態を理解し,いかに適切に調査点・時刻・採集具を設定して個体群の生物特性の代表値を得るかが,研究者の腕の見せどころではあるが,バイアスを伴う可能性があることは野外調査の宿命である.また,野外採集標本の解析は,特定の時空間における複数個体の性質を明らかにしたにすぎず,複数個体の性質をトレースしても,個体の性質を必ずしも表しているとは言えない.例えば,野外採集により得られた個体のサイズと齢をプロットしても,各個体の成長を表してはいない.野外調査は,広い範囲で多くの個体の情報を得られるため,潜在的に個体群全体の特徴を把握できる可能性があるという点で優れているが,得られた情報は個体の生態の履歴を示していない点に注意が必要である.
 魚類の生態やその環境応答をより深く理解するためには,現在の体長ではなくどのような成長をしてきたか,現在の胃内容物や内容物重量ではなく何をどれだけの量摂ってきたか,現在の成熟状態ではなく過去の産卵経験の有無やこれまでどの程度産卵したかといった,個体の生態履歴情報が必要となる.履歴がわかると,ある時空間断面で得られた情報が時空間的に広がりをもつ情報となる.このような意味で,耳石を用いた成長履歴の解析は画期的な手法であり,この手法により多くの重要な知見が提出されたのは当然の帰結と言える.繁殖特性研究において,このような履歴を調べる手法はあるだろうか.答えはyesである.排卵後濾胞を指標にした産卵日の特定および産卵間隔の推定(1,3,5,6章),排卵後濾胞の有無や卵巣膜の厚さを指標にした産卵経験の有無の特定(7章)などが行われている.また,Atlantic cod Gadus morhua では,産卵期の途中に採集した個体の卵母細胞径分布を用いて,個体が産卵期に産む産卵数のうち,すでに産卵した割合を推定する手法も開発されている.しかし,残念ながらこれらの手法の適用は種に特異的であり,産卵間隔の推定は2~3日前までの履歴しかわからない.産卵経験の有無はわかっても,産卵時期や回数に関する情報は得られない.現在用いることができる手法では,繁殖生態の環境応答を調べるには不十分な情報しか提供できない.
 そこで考えられるのが,野外調査以外の方法を用いて,個体の繁殖特性履歴や繁殖生態の環境応答を調べることである.本書では,飼育実験とバイオロギングを取り上げ,それらによる研究の現状と展望を概説する(3,4章)とともに,実際の活用例を紹介した.飼育実験については,活用の仕方が異なる3つの研究例を紹介した.すなわち,野外採集標本の解析に必要なパラメータおよびその水温応答を明らかにする研究(5章),繁殖特性の環境応答を明らかにする研究(6章),繁殖生態自体を明らかにする研究(7章)である.一方,バイオロギングでは,産卵行動の記録から産卵生態を明らかにする研究(8章),大規模な産卵回遊を明らかにする研究(9章),経験水温と行動記録から代謝量を推定する研究(10章)を紹介した.なお,代謝量推定は,一見,繁殖生態研究とはかけ離れているようだが,繁殖生態研究にとって重要な知見である.なぜなら,産卵開始年齢・体長は個体の生活史の中におけるエネルギー配分の問題であり,また,産卵量は産卵期前または産卵期中に獲得できたエネルギー量に応じて変化するからである(2章).
 野外調査は広い範囲から多くの個体の情報を得られるが,ある時空間断面の情報である.飼育実験は個体あるいは少数個体グループの繁殖特性とその履歴,さらに環境応答を調べられるが,閉鎖的な人口環境下における結果である点に注意する必要がある.バイオロギングは,個体の野外における行動履歴情報が得られるが,行動を正しく特定する必要があるとともに,サンプル個体数が少ないという弱点がある.それぞれを併用することで,弱点を補い合い,より正しい繁殖特性およびその環境応答に関する理解に結びつくことが期待される.
 飼育実験やバイオロギングを漁業資源の生活史研究に活用する動きは国際的にも歴史が浅い.飼育実験はAtlantic
codを中心に20年程度,バイオロギングはplaice Pleuronectes platessa を中心に10年程度の歴史に過ぎない.特に本書で扱っている非同期発達型―産卵数事前非決定型(用語説明参照)の魚種の研究例はまれであり,本書で紹介した知見や手法は,国際的にも新しい情報である.日本の魚類等の飼育技術は非常に水準が高い.また,バイオロギング研究の発展は日本がその一翼を担っており,世界トップレベルの研究水準にある.これらの手法を積極的に導入し,野外採集標本の解析と併用・比較することで,繁殖特性に関する理解が深まることを祈念する.本書が,繁殖特性研究の深化および新しい研究の創出の契機になれば望外の喜びである.

I.繁殖特性パラメータとその活用
1章 繁殖特性パラメータの資源評価への活用(渡邊千夏子)/2章 繁殖特性パラメータの生活史モデルへの活用(伊藤進一) 
II.飼育実験とバイオロギングによる繁殖特性研究法
3章 飼育実験を用いた繁殖特性研究(松山倫也)/4章 バイオロギングを用いた繁殖に関連する行動研究(河
邊 玲)
III.飼育実験による繁殖特性研究例
5章 ヒラメ産卵形質の出現持続時間と水温の関係(栗田 豊)/6章 カタクチイワシの成熟・産卵量調節機構(米田道夫・北野 載)/7章 飼育下におけるサンマの産卵生態(巣山 哲)  
IV.バイオロギングによる繁殖に関連する行動研究例 
8章 産卵期におけるヒラメの遊泳行動(安田十也)/9章 ブリの回遊パターンと産卵場の推定(井野慎吾)/10章 マダイのエネルギー収支(光永 靖・安田十也)
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