真珠研究の最前線

高品質真珠生産への展望―水産学シリーズ180

真珠研究の最前線

日本が誇る真珠養殖研究の現状と将来展望

著者 淡路 雅彦
古丸 明
舩原 大輔
ジャンル 水産学 > 資源・漁業
水産学 > 水産学シリーズ
シリーズ 水産学シリーズ
出版年月日 2014/09/25
ISBN 9784769914860
判型・ページ数 A5・160ページ
定価 本体3,600円+税
在庫 在庫僅少

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アコヤガイを用いた真珠養殖は日本の輸出水産物を長く支えてきたが、最近は赤潮や赤変病の発生、諸外国産との競合や国際的な経済変動などの影響で厳しい経営が続いている。そこで、高品質真珠生産、漁場環境の保全、疾病の防除を課題に、遺伝子やゲノム情報などの新しい技術開発もふまえて真珠生産の今後の展望を解説する。


はじめに

 若き御木本幸吉氏がアコヤガイ半円真珠の養殖に成功したのは1893年,今から約120年前のことである.その後,真珠養殖は様々な技術改良,とくに西川藤吉氏,見瀬辰平氏らによる真円真珠作成法の発明により大きく発展し,長くわが国の輸出水産物の主要品目であり続けてきた.しかし現在,アコヤガイを用いた日本の真珠養殖業は,赤潮やアコヤガイ赤変病の発生,南洋産・淡水産真珠との競合,国内外の経済変動など,変化し続ける状況の中で厳しい経営が続いている.そして技術革新による高品質真珠の生産,漁場環境の保全,疾病の防除などが真珠業界全体の取り組むべき大きな課題となっている.
 高品質な真珠を生産するためには,アコヤガイの性質をよく知り,養殖場環境を良い状態に保つことが大切なのはいうまでもない.そのために現在も様々な研究や技術開発が進められており,中でも特筆すべきことは,2012年にアコヤガイのゲノム情報が解読され, 公開されたことである.iPS細胞の作製など,遺伝子情報にもとづく新しい技術のニュースが一般にも身近なものとなってきているが,真珠養殖もそのような遺伝子やゲノムの時代を迎えようとしているのである.その過渡期にある今,真珠養殖に関して現在日本で進められている研究と技術開発の現状をまとめ,これからの真珠養殖が進む道を考える材料を提供するために本書の出版を企画した. 本書はI~IIIの三部構成となっている.「I.高品質真珠生産技術の開発」ではまず,従来よりもさらに重要性が高まってきているアコヤガイの育種について,1章で育種目標や育種を進める際に考慮すべき点,アコヤガイの遺伝子やDNAマーカーの育種への利用などについて総説する.そして2章および3章では,三重県と長崎県における選抜育種の具体的取り組み事例を紹介するとともに,生産性向上を目指した技術開発例も紹介する.また4章では外套膜組織片の移植という従来の方法に替わる新しい真珠生産法の可能性について紹介する.
 「II.真珠養殖における問題点と解決の方向」では,現在真珠養殖が直面する問題点について,まず5章でアコヤガイ赤変病の病原体究明の現状について紹介する.6章では養殖場環境の問題点について,英虞湾を例に現状と課題解決に向けた取り組みを紹介する.7章では真珠やアコヤガイを様々な角度から高度利用し,産業規模において持続可能なゼロ・エミッションにつなげることに成功した例を紹介する.
「III.遺伝子情報による技術革新の展望」では,ゲノム情報が真珠養殖にどのように生かし得るのかを展望するために,まず8章で真珠の品質や微細構造と真珠袋での遺伝子発現との関連について最新の研究成果を紹介する.9章では真珠形成を遺伝子,タンパク質レベルで理解するための基礎として,貝殻基質タンパク質の構造と機能について,その進化も含めて総説する.最後に10章ではアコヤガイゲノム情報について,ゲノムとは何か? という基礎からはじめ,真珠形成にかかわる遺伝子を網羅的に解析して新しい遺伝子を多数見出した成果を紹介し,ゲノム情報をどのように真珠産業に生かしていけるかを展望する.
 現在,最前線で研究や技術開発に取り組んでいる方々に各章の執筆をお願いした.忙しい業務の中で原稿をご執筆いただいたことにお礼申し上げる.一方,本書で紹介している成果以外にも,真珠養殖に関する多くの優れた研究や技術開発が進められている.しかし,紙面の都合ですべてを紹介することはできなかったことを,編者としてお詫びしたい.
 以上の内容に加えて,口絵と巻末にはアコヤガイ解剖図を掲載した.この解剖図は三重県水産試験場(現在の三重県水産研究所)が三重県立大学(現在の三重大学)の椎野季雄教授に依頼して作成し,昭和27(1952)年に「あこやがい(真珠貝)解剖図」として出版したものである.大変詳細で優れた解剖図だが,出版から長い年月を経て,真珠研究に携わる者でもその存在を知る人が少なくなってきている.アコヤガイの体の構造を理解することは,これから真珠の生産や研究に取り組もうという若い方たちにとり,そしてベテランにとっても,とても大切なことであろう.広く利用され続けることを願って掲載することにした.本書への掲載をご了解いただいた三重県水産研究所に厚くお礼申し上げたい.戦後の復興期において,輸出品のエースとして期待された真珠.激動と混乱の時代に,真珠産業を守るための大きな努力が払われた.経済的にもまだ大変厳しかった時代に作られたこの解剖図を眺めていると,真珠の品質を自分たち自身の研究によって高めていこうという,当時の人々の熱意や気概を感じる.真珠産業を取り巻く状況は当時と今ではまったく異なるが,今を生きるわれわれにもそのような心意気が求められているのではないだろうか.本書が真珠産業の健全な発展に少しでも役立つことを願って,まえがきとしたい.

Ⅰ.高品質真珠生産技術の開発 1章 アコヤガイの育種 (正岡哲治)/2章 アコヤガイの改良と新しい養生技術(青木秀夫・渥美貴史・古丸 明)/3章 真珠養殖の生産性向上に関する取り組み(岩永俊介)/4章 外套膜外面上皮細胞の移植による真珠形成(淡路雅彦・柿沼 誠・永井清仁) Ⅱ.真珠養殖の問題点と解決の方向 5章 アコヤガイ赤変病の病原体究明の現状(中易千早・松山知正・小田原和史)/6章 英虞湾における養殖場環境の現状と課題(国分秀樹・渥美貴史)/7章 養殖廃棄物の高度化利用による環境負荷低減(前山 薫・永井清仁) Ⅲ.ゲノム情報による技術革新の展望 8章 真珠の品質と微細構造と遺伝子発現(古丸 明・佐藤 友・井上誠章)/9章 貝殻基質タンパク質に基づいた貝殻・真珠の形成(宮本裕史)/10章 アコヤガイのゲノム情報を水産業に活用する(竹内 猛・木下滋晴・舩原大輔)

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