新版クジラの生態

新版クジラの生態

クジラの分布、生理・生態ほか捕鯨をめぐる資源管理等をまとめた。新版では鯨類資源管理について最近の動向や初学者向けの解説を追加

著者 笠松 不二男
田中 栄次 補訂
ジャンル 海洋生物学 > 生理・生態
出版年月日 2015/08/20
ISBN 9784769915676
判型・ページ数 A5・248ページ
定価 本体3,200円+税
在庫 在庫あり

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クジラ類の分布、生理・生態のほか、著者自らが調査航海で得た資料を基に資源管理について解説する。クジラを学ぶうえで必要な生態(回遊・摂食・繁殖)、資源管理や環境への影響等を、写真・図を用い詳細にわたり一般から専門家まで読めるようにまとめた。新版にあたり鯨類資源管理の最近の動向や初学者向けの解説を追加。

 


はじめに

 本書は,東京水産大学の非常勤講師としてクジラの生態を講義する際に書き下ろした講義ノートが成長してできたものである.私の永年にわたる北極海・南北太平洋・南北大西洋・インド洋そして南極海におけるクジラやイルカの生態観察とその記述を中心に,内外の研究者による最新の生態学的研究成果をも加えて本書は構成されている.本書は専門書であるが,クジラやイルカの生態をはじめて学ぶ人々にも理解できるように記述することに努めた.
 本書では,第 1 章でクジラ類の進化・分化と放散を扱い,合わせて現生のイルカを含む各クジラ類の特性を記述した.第 2 章ではこの本の中心的内容となる分布生態を詳述し,分布生態と密接に関連する摂食生態と繁殖生態についてそれぞれ第 3 章と 4 章で記述した.また,目視調査を中心としたイルカやクジラの調査方法を紹介する(第 5 章)とともに,捕鯨と資源管理にも言及した(第 6 章).最後の第 7 章では,イルカやクジラに対する化学物質による影響を扱った.
 鯨類生態学の分野での私の専門は,分布生態である.カナダの著名な生態学者 Krebs は,1972 年に出版した生態学の教科書「Ecology」の中で,生態学とは「生物の分布と個体数の研究」と定義しているように,分布生態の研究は,現在の生態学の中心的な分野である.動物の繁殖,摂食といった基本的な生態や物理的環境との関係が,結果としてその動物の分布を制御あるいは支配していることから,分布生態はこれら摂食や繁殖に関する分野も視野に入れて追求されている.1980 年代後半から 1990 年代にかけて,分布生態の分野では,「Habitat Use」という分野の研究が注目されている.クジラ類が利用している水域とはどんな所か.そこには何かあるのか.そこにいる生物はクジラ類とどのような係わりをもっているのかなどを多様な調査手法と解析手法で解明しようとしている.現在のところこれらの成果は,いまだ分布の記述が中心で,Habitat Use を支配あるいは制御している要因やクジラ類以外の生物群集との連関に関する成果や記述は少ない.それは,クジラ類の調査が時間と労力(費用)を要するとともに,例え小さい水域であってもそこを利用するクジラ類群集の全体像が掴めないという困難さが原因である.それでも,日本を含め北欧(ノルウェー・アイスランド)や米国(特に,NOAA-Southwest Fisheries Science Center の S. Reilly 博士や Northeast Fisheries Science Center の T. Smith 博士ら)により少しずつこの分野の調査研究が進展してきた.本書では,これらの成果を含め,著者らの実際の調査から得られた具体的な事例を紹介しながらクジラ類の生態を理解してもらうことを主眼としている.方法論・解析手法については,基礎的な理解を得る範囲にとどめているので,もっと知りたい方は,巻末の参考文献を読んでいただきたい.
 本書は,過去 20 年あまりにわたる多くの方々との共同調査と研究に負うところが多い.(以下省略)

2000 年 4 月
著者

新版 まえがき
 本書が出版されて15年経過した.この間,鯨類をめぐってさまざまなことがあった.中でも最大の事件は2014年の国際司法裁判所における日本の敗訴である.オーストラリア政府は日本政府が実施している南極海の科学的捕獲調査が条約に違反しているとして提訴していたが,予想を覆して条約違反と判断された.その理由もまた日本の捕獲調査が条約で認められた科学的範囲を逸脱しているという,日本にとっては極めてショックな判断理由であった.その結果2014/15シーズンの捕獲調査は中止せざるをえなくなった.
 著者の故笠松博士は南極海すべての水域の調査を行った経験がある数少ない鯨類の研究者の1 人であり,日本鯨類研究所の調査員として南極海の科学的捕獲調査の指揮を行ってきた経験もあった.故人にとってこの結果は私以上にとても残念だったと思う.しかしながらその判断理由とは異なり,本書にはこの科学的捕獲調査の学術的成果が随所に盛り込まれ,1987年以降継続的に行われてきたこの調査がなければ本書の出版もなかったと思う.
 この他の鯨類の話題として,国際捕鯨員会における改定管理方式の完成が挙げられる.これは鯨類の資源管理において大きな進展であった.東京水産大学(現東京海洋大学)で講義されていた当時はまだ審議中であった改定管理方式も採択された.その後異議申立てを撤回していないノルウェーはこの管理方式での捕獲限度量をもとに商業捕鯨を再開するなど,社会的にも大きな変化があった.また日本の捕獲調査の対象鯨種の分類もミンククジラから別種のクロミンククジラへと種名変更が行われるなど,本書の修正を行う必要性もでてきた.
 旧版は研究者1 人が体系的に書いた,最近では数少ない書物の1 つであり,また当時の記録としても貴重である.そこで旧版の部分については大きな変更を加えず,種名やミスプリントなどの必要な修正だけを加えることにした.文献や研究者等の所属についても当時のままにしてある.また新版ではできるだけ日本語表記に直すとともに、本書の理解の一助となるよう漁業生物学や資源動態モデル等の概要を巻末に補論として収録したほか,完成した改定管理方式の概要も合わせて収録した.新版として生まれかわった本書が再び日本の鯨類学の教育・研究に貢献することを祈念している.

第 1 章 進化と放散/第 2 章 分布生態/第 3 章 摂食生態/第 4 章 繁殖生態/第 5 章 資源量推定/第 6 章 資源管理と捕鯨/第 7 章 環境汚染物質とクジラ類/補論

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