新刊

魚の形は飼育環境で変わる

形態異常はなぜ起こるのか?

魚の形は飼育環境で変わる

養殖現場で飼育魚が天然と異なる形や色に育つ「形態異常」。その防除対策と発生生物学の両面で、魚の形と飼育環境の複雑な関係に迫る

著者 有瀧 真人
田川 正朋
征矢野 清
ジャンル 水産学 > 増養殖
出版年月日 2017/06/30
ISBN 9784769916062
判型・ページ数 B5・152ページ
定価 本体2,400円+税
在庫 在庫あり

この本に関するお問い合わせ・感想

安価な回転寿司を支えるのが養殖や放流による水産物である。日本が誇る稚魚の飼育技術(種苗生産)の成果といえる。一方、飼育した魚が天然と異なる形や色に育つ「形態異常」の存在は今なお課題である。見た目が違う魚は消費に直接影響する。その対策に挑む飼育屋の奮闘を紹介するほか、発生生物学の視点から正常な魚の形が作られるメカニズムについてせまる。


はじめに

 サーモンは子どもの好きな寿司ネタとして,常に上位にあげられると聞く.また最近ではかつて高級であったタイやヒラメもずいぶん身近になってきた.実は,回転寿司などでおなじみのこれらの魚の大多数は,人間によって育てられていた放流魚や養殖魚である.もちろん天然魚も流通しているが,魚好きの日本人に対応するには十分ではない.そのため,天然の魚がこれ以上減らないようにする目的で稚魚の放流や,食用の魚を大量に安定して供給する養殖が,日本ではどうしても必要となっている.このように放流や養殖によって水産物の価格や流通量を維持するためには,人の手によって育てられた稚魚,いわゆる人工種苗の存在が不可欠である.人工種苗を育てることを種苗生産と呼ぶが,この技術は半世紀以上も前に日本で開発され,今や全世界で活用されている. しかし,未だに大きな問題が多く残されており,その1つが本書で紹介する形態異常である.形態異常とは天然の魚と異なる形や色をもつことである.大きく体が曲がってしまう極端な変形はもちろん,左右に2ヵ所ずつあるはずの鼻孔がつながって,それぞれ1ヵ所になるような目立たない異常や,本来真っ白なヒラメやカレイの裏側が黒くなるような色だけの異常も形態異常に含まれる. なぜ,形態異常が起こるのか? そもそも形態異常とはどういう現象なのか? どうすれば形態異常を防ぐことができるのか? これらの詳細は本書をご覧頂くこととして,この本全体を貫く核心を少しだけ紹介しておきたい.先の問いの答えは,種苗生産では何をしなければいけないかを考えると見えてくる.完全養殖の達成が近年ウナギやマグロでニュースになったが,これは親の魚を飼い,卵を採って稚魚を飼育し,それを成熟した親の魚に育てあげ,再び卵を得ることである.すなわち対象とする魚の生活史(一生)を人間の用意した水槽の中で再現することに他ならない.このうち種苗生産は,親の魚から得た卵を数センチの稚魚に育てる部分であるが,形態異常はその期間の生活史をうまく再現できないときに現れる.たとえば親魚や卵の扱いが悪いとき,仔稚魚が必要とする水槽の環境や餌を用意できないとき,彼らは形態異常という表現で飼育する人間に警告を発してくる.いいかえれば形態異常はものいわぬ魚達の直訴状である.飼育する人間は直訴状をしっかり受け止め,声なき声を理解し,適切に対処することを求められている. 15編の各章は,いわば,それら魚たちの直訴状との格闘記録で,形態異常という問題の解決や,形態異常の研究から見えてきた新知見が紹介されている.同志である魚の飼育現場の方々には,様々な事例やデータとして参考にして頂けると思う.また本書では,報告書や論文などでは埋もれてしまうような,飼育者や研究者の生の息づかい,ワクワクやドキドキ,思い入れなどをできるだけ残すようにした.特に6編のコラムは飼育現場からの問題提起やこぼれ話となっている.これからプロとしての「魚飼い」を目指す人には,現場の厳しさと,それを乗り越えたときの喜びを知って頂けたらと思う.種苗生産は確立の困難な技術の積み重ねであるが,研究のような奥の深い側面も存在する.本書がその深みに踏み込む際の手引書になれば望外の幸せである.形態異常を切り口として,魚の種苗生産技術と初期発生の神秘を明らかにするための研究をさらに発展させるために,本書をお読み頂いた皆さんからのご指摘・ご意見を心より待ち望んでいる.

Ⅰ.魚類人工種苗における形態異常とは何か?
1 章 魚類の形態異常の概略(田川正朋) /2 章 異体類の形態異常は変態異常である(有瀧真人・青海忠久) /3 章 ウシノシタ類に発現する体色・眼位異常(草加耕司・藤田亮太・小倉佳奈・那須隆文・有瀧真人)/4 章 ヒラメに発現する脊椎骨および顎顔面骨格の異常(芳賀 穣・鈴木 徹)/5 章 キジハタに発現する形態異常(岩崎隆志・町 敬介)/6 章 ニホンウナギの種苗生産過程で発現する様々な形態異常(田中秀樹)/7 章 アカアマダイに発現する形態異常(豊村晃丞・水田 篤・松浦光宏・中西健二・有瀧真人)
Ⅱ.魚類人工種苗形態異常の防除の試み
8 章 異体類の眼位・体色異常を発育速度のコントロールで軽減する(有瀧真人・青海忠久)/9 章 マハタ・クエに発現する脊椎骨等の異常とその防除(辻 将治・中田 久)/10 章 ブリに発現する骨格等の形態異常と量産規模における防除について(堀田卓朗)/11 章 マダイにおける脊椎骨の異常を胚発生環境から検討する(澤田好史)
Ⅲ.形態異常研究における新たな視点と今後
12 章 異体類の体色・眼位異常におけるホルモン系関与の可能性(田川正朋)/13 章 異体類における左右性異常を発生システムと遺伝子発現から追う(鈴木 徹)/14 章 形態異常を卵質という古くて新しい課題から考える(征矢野 清)/15 章 形態異常についての研究手法の現状と今後(宇治 督)

コラム❶  形態異常研究の昔ばなし(青海忠久)
コラム❷ サケの形態異常(伴 真俊)
コラム❸ キジハタにとって心地良い水槽とは?(南部智秀)
コラム❹ ヒラメやアユは甘い水がお好き?(余語 滋)
コラム❺  研究・技術開発の現場でシビレる瞬間 (有瀧真人)
コラム❻  形態異常と種苗生産-きれいな魚をうまく飼うには(照屋和久)

ご注文

2,400円+税

書店で購入

カートに入れる

シェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加

同じジャンルの商品

おすすめ書籍

お知らせ

一覧