新刊

よみがえる魚たち

よみがえる魚たち

最新の自然再生活動モデルのノウハウと情報が詰まった手引書。

著者 高橋 清孝 編著
ジャンル 海洋学・環境科学 > 環境
出版年月日 2017/06/30
ISBN 9784769916079
判型・ページ数 B5・196ページ
定価 本体3,400円+税
在庫 在庫あり

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 淡水魚の「最後の砦を守れ!」 里山のため池と川の自然再生活動について、絶滅危惧種であるシナイモツゴ復元の取り組みを軸に、その体制・経緯・成果を紹介。侵略的外来種の対策では喫緊の課題であるアメリカザリガニを特集。最新の自然再生活動モデルのノウハウと情報が詰まった手引書。


はじめに

 フナ,メダカ,ドジョウ,ナマズなどの魚で賑わっていた水辺の原風景を思い描ける人はいつの間にか少なくなってしまった.淡水魚の減少は1940 年代まで緩やかに進行したが,1950年代以降急激に進み,各地で激減あるいは全滅する事態が頻発している.ほ場整備や宅地造成などの開発が旧ピッチで進められ,田園の魚たちは繁殖と生息の場を失った.これにより,平野部の止水に生息する在来魚は激減しメダカを始めとする多くの魚が絶滅危惧種に指定された.筆者のフィールドである旧品井沼周辺では,これらを象徴する事件が17~20世紀にかけて断続的に発生しているので,本書で振り返り検証したい.
 1990年代にはブラックバス釣りが大流行し,放流された池や沼で繁殖して小型魚類を捕食し生態系が一変するほど大打撃を与えた.宮城県の伊豆沼・内沼は国指定の天然記念物でありラムサール条約に登録され手厚く保護され,漁業者により絶滅危惧種のゼニタナゴが1 年に数トン水揚され加工用として利用されるなど,最も淡水魚の豊富な天然湖沼の一つとして知られていた.しかし,伊豆沼では1996 年にオオクチバスの繁殖が確認されると1997 年にゼニタナゴの漁獲が皆無となってしまった.まさに,あっと言う間に全国最大のゼニタナゴ生息地が消滅したのである.今や全国の天然湖沼の多くで貴重なタナゴ類が姿を消し,その他多くの在来種が全滅の危機にさらされている.さらに,外来種や国内移入種による遺伝子かく乱や競合も在来種の減少に拍車をかけている.外来種対策は,自然再生を実現するために不可欠であることから,本書の中心課題の一つとして重点的に解説した.特にアメリカザリガニについては影響が大きいにもかかわらず,これまで情報が少ないため取り組みが遅れていることを重視し特集した.
 1993年,筆者は幸運にも4 種の絶滅危惧種が生息する農業ため池を発見した.60 年間行方不明になっていた模式産地のシナイモツゴを探索するため,40 カ所以上調査したため池の一つで,シナイモツゴに加え,絶滅危惧種のゼニタナゴ,ギバチ,ミナミメダカと在来魚5 種の生息を確認したのである.なぜ,これほど多数の在来種が一つのため池に生息しているのだろうか,長い間,疑問は解けなかった.その後,2002 年に,このため池の近隣に住む長老から食料として保存する目的で大正~昭和初期(1912~1930 年頃)に品井沼で漁獲した魚を毎年,このため池へ放流したという事実を知らされた.これにより,品井沼にかつて生息していた多くの魚類が里山のため池で見つかった理由が明らかになり,大いに納得することができた.さらに,注目すべきことは,この池はシナイモツゴとゼニタナゴの繁殖場と生息場として少なくとも約80 年の長期にわたり,機能を維持してきたことである.もしかすると,ため池を活用すれば,安全に低コストで長期間,絶滅危惧種を保全できるのではないだろうか? と考えるようになった.
 2002 年から旧品井沼周辺の里山で農業者や地域住民と連携しながらブラックバス退治が始まった.毎年,新たな池で池干しが行われ,ブラックバスが完全駆除され,安全が確認されたため池にはシナイモツゴやゼニタナゴが放流された.ブラックバスが生息する池は年々減少し2015 年に里山のため池からブラックバスは一掃されるが,2011 年頃から,ため池を水源とする小川で魚が増えてきた.毎年実施する子どもたち主体の生き物観察会では,この頃から小川でもブラックバスが姿を消し,同時にメダカ,スナヤツメ,フナ,タモロコなどが目に見えて増え,コオイムシやイトトンボ幼生も見られるようになった.ため池からブラックバスを一掃することにより里地の小川に魚の賑わいが戻ってきたのである.本書では里山のため池と川の自然再生について,取り組みの体制,経緯,成果などについて詳しく解説し自然再生活動モデルとして紹介した.
 里山のため池は東北地方でも400 年前には造成されており,長い間,稲作農業者によって保全管理されてきた.したがって,旧品井沼周辺のため池に生息する魚たちは農業者により無意識のうちに守られてきたのである.しかし,里地の水田は生産性が低いので,今後,ますます,離農により放棄される可能性が高まっており,そうなった場合は,ため池も管理放棄されて崩壊するおそれがある.したがって,ため池を管理する農業者を支援する取り組みは極めて重要と考えられる.ここでは,現在,全国的に注目されている生き物ブランド米「シナイモツゴ郷の米」を活用した市民団体と農業者の連携について詳述した.
 2004 年からほぼ毎年秋にシンポジウムを開催し,自然再生にかかわる研究者,市民団体,行政などの第一人者を招き情報提供と議論の場をつくってきた.内容は自然再生戦略・戦術,各地で取り組む活動の実態,保全対象種の生態,自然再生技術,外来種対策などの最新知見である.本書は,すべてこのシンポジウムで講演された内容に基づいている.筆者は自然再生活動が市民,農業者,学校,研究機関,企業,地域行政が連携し,地域ぐるみで取り組むことにより大きな力を発揮し,長期継続が可能になると信じている.そのための手引書として,本書を多くの方に活用していただければ幸いである.


  2017 年4 月

                                                高橋清孝

1 章 淡水魚を取り巻く情勢
1-1 絶滅のおそれのある淡水魚の現状と全国で展開する保護活動(小林 光・半沢裕子)
1-2 絶滅のおそれのある野生生物種の現状と保全戦略(徳田裕之)

2 章 減少原因と対策
2-1 開発による生息環境の破壊(高橋清孝)
2-2 侵略的外来種の侵入
2-2-1 オオクチバスの影響と対策(藤本泰文)
2-2-2 ブルーギルの影響と対策(芦澤 淳・藤本泰文)
2-3 アメリカザリガニの侵入
2-3-1 アメリカザリガニの生活史 ―繁殖生態を中心に―(川井唯史)
2-3-2 アメリカザリガニが生態系に与える影響 ―浅い湖沼を中心として―(西川 潮)
2-3-3 アメリカザリガニの影響と対策 ―水生植物への影響と対策および効果―(森 晃)
2-3-4 アメリカザリガニが水生昆虫類に及ぼす影響と対策およびその効果(西原昇吾・苅部治紀)
2-3-5 アメリカザリガニによる魚類への影響―ゼニタナゴ,シナイモツゴ,メダカなど希少魚の繁殖が脅かされている―(高橋清孝・長谷川政智・久保田龍二・藤本泰文)
2-3-6 効果的なアメリカザリガニ防除技術の開発 ―トラップで低密度化を実現―(高橋清孝・長谷川政智・浅野 功・芦澤 淳・安住芳朗・久保田龍二)
2-3-7 アメリカザリガニの繁殖阻止を目指す捕獲方法の検討(高橋清孝・長谷川政智・西原昇吾・苅部治紀・林 紀男)
2-4 その他の外来種の侵入
2-4-1 ウシガエルの影響と対策(佐藤良平・西原昇吾)
2-4-2 ミシシッピアカミミガメによる影響と対策(片岡友美)
2-4-3 宮城県に侵入した外来淡水エビのカワリヌマエビ属(長谷川政智)
2-5 東日本大震災の教訓 ―支えあって大災害を乗り越える―(高橋清孝)

3 章 地域ぐるみで全滅の危機を乗り越えたシナイモツゴの郷
3-1 繰り返し発生した全滅の危機(高橋清孝)
3-2 淡水魚を守る戦略と戦術
3-2-1 魚類学的保全単位としての超個体群 ―遺伝的多様性を維持してきた淡水魚の戦略に学ぶ―(細谷和海)
3-2-2 シナイモツゴ郷の会の戦略(高橋清孝)

4章 シナイモツゴの郷の取り組みと成果
4-1 だれでもできる自然再生技術を開発し市民参加を実現
4-1-1 だれでもできるシナイモツゴの人工ふ化(坂本 啓・高橋清孝)
4-1-2 だれでもできるシナイモツゴとゼニタナゴ稚魚の飼育(高橋清孝・久保田龍二)
4-1-3 だれでもできるグリーンウォーター ―植物プランクトンをペットボトルで簡単培養―(丹野 充)
4-2 シナイモツゴ里親たちの活躍
4-2-1 地域ぐるみの活動と里親活動による後継者の育成(二宮景喜)
4-2-2 里親小学校子どもたちの取り組み
4-2-2-1 命をつないで ―シナイモツゴの里親活動をとおして―(飯塚 昇)
4-2-2-2 シナイモツゴの里親として(那須 孝)
4-2-2-3 シナイモツゴと環境教育(佐々木洋一)
4-2-2-4 里親小学校の取り組みと教育(加藤英紀)
4-2-2-5 津波被害を乗り越え継続した里親活動(渋谷雄二郎)
4-2-2-6 総合的な学習の時間で取り組む「シナイモツゴ」の教材価値を考える ―3 年生と6 年生の実践を通して―(浦川裕之)
4-2-3 飼育保存と保全啓発を目指す水族館の取り組み(松本憲治)
4-3 シナイモツゴ郷の米認証制度でため池を守る農業者を支援
4-3-1 自然再生の側面から ―ため池を守る農業者を支援する体制づくり―(高橋清孝)
4-3-2 中山間地域農業存続の側面から ―シナイモツゴ郷の米と地元住民の取り組み―(吉田千代志・菅井 博・佐藤弘樹)
4-4 遺伝的多様性を維持しながら生息池拡大を実現―シナイモツゴおよびゼニタナゴ移植個体群の遺伝的多様性調査―(池田 実)
4-5 地域ぐるみで後継者を育成(大崎市産業政策課)

5 章 よみがえる魚たち
5-1 ため池と流域河川でよみがえった魚たち(高橋清孝)
まとめ ―魚でにぎわう水辺の自然をいつまでも―(高橋清孝)

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