新刊

海洋保護区で魚を守る

サンゴ礁に暮らすナミハタのはなし

海洋保護区で魚を守る

石垣島近海のサンゴ礁の魚、ナミハタの生態や海洋保護区による保全の研究を解説。漁業者と研究者の協力など社会学的な取り組みも紹介

著者 名波 敦
太田 格
秋田 雄一
河端 雄毅
ジャンル 海洋生物学 > 生理・生態
シリーズ 水産研究・教育機構叢書
出版年月日 2018/09/10
ISBN 9784769916260
判型・ページ数 A5・238ページ
定価 本体2,500円+税
在庫 在庫あり

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海洋生物の保全を考える上で、世界的に注目を集める「海洋保護区」。その目的は様々だが、日本でも漁業者の暮らしを支え、食用の魚を守り増やすことを目指し、石垣島近海のサンゴ礁に暮らす魚ナミハタを対象にした海洋保護区が設定されている。潜水調査やバイオロギング等によって得られた最新の研究成果をもとにナミハタの生態を解明していくだけでなく、保全という観点では漁業者と研究者の交流を通じた科学と社会活動の融合など、時に現場の苦労や感動といった裏話も交えながら社会学的な面からも具体的な事例を提供する。


はじめに

 近年,地球環境の悪化や人間活動により,海の生き物は生きていくことが厳しい状況に直面しています.とりわけ,多種多様な海の生き物が生息し,生き物の楽園と呼ばれるサンゴ礁では,事態は一層深刻です.例えば,サンゴの死滅によって生き物たちは住み場所を失い続けています.また,人間が食用として獲る魚の数は減り続けています.このようななか,サンゴ(造礁サンゴ)を増やし,環境の回復を試みようとする情報はニュース・ブログ・ダイビング雑誌・書籍などで紹介されています.しかし,サンゴ礁の主人公ともいえる魚について,自然界で守りながら増やそうとする研究や取り組みについては,あまり知られていないのが現状です.
 一方,世界に目を向けると,海の生き物を守るために「海洋保護区」という考え方が脚光を浴びています.第10 回生物多様性条約締約国会議(COP10)で決定された戦略計画2011-2020(愛知ターゲット)においても,世界の国々は2020 年までに沿岸・海洋域の10%を海洋保護区として設定することが決議されています.このように,海洋保護区を用いて海の生き物を守る取り組みは,世界では主流になりつつあります.しかし,わが国において「実際に海洋保護区によって魚を守ることを試み,その取り組みを検証している研究はあるだろうか?」ということに思いをはせますと,そのような知見は広く知られているとはいえません.
 また,「海洋保護区」について“ 手つかずの自然が保たれた生き物の楽園”というイメージをもち,「海洋保護区をつくることはすべての人々から賛同される.提案すれば,すぐに実現するものだ」と思われる方もいるかもしれません.一方で,海洋保護区の目指す目標にはさまざまなものがあります.世界に目を向ければ,「漁業者の暮らしを支えるために,食用の魚を守り増やす」ために設定された海洋保護区があります.また,現実には多くの問題と向き合っていかなければ海洋保護区は実現せず,また機能しません.したがって「誰のために,どのような生き物を守るための海洋保護区なのか?」あるいは「海洋保護区をつくる際にどのような問題に直面し,それをどのように解決したのか?」という問いに対して,具体的な事例を紹介することが必要と思われます.
 このような観点から,この本では,わが国最大の規模をもつサンゴ礁(石西礁湖:石垣島近海のサンゴ礁)で,研究者と漁業者が協力しながら,ナミハタと呼ばれる食用の魚に着目し,海洋保護区をつくって守る取り組みを紹介しま
す. 
 第1 部では,特定の日・特定の場所に,卵を産むために集まるサンゴ礁の魚について解説します.そして,沖縄のサンゴ礁に住むナミハタが,1 年に1回か2 回だけ,卵を産むために集まる習性があることを紹介します.また,ナミハタの数が減った主な原因が,産卵のために集まったナミハタを集中的に漁獲した結果であることを解説します.そして,産卵場を海洋保護区にするの必要性を示します.
 第2 部では,「設定された海洋保護区が,ナミハタを守るために本当に有効なのか?」という問いに対して,研究者自らが実証した成果を紹介します.また,単なる科学的な知見の解説にとどまらず,研究者が漁業者と協力しながら,どのような困難を乗り越えて成果を出したのか,読み物としても楽しめるように配慮しました.
 第3 部では,科学的な知見をもつ研究者が漁業者に魚を守る大切さを伝え,漁業者がこれに賛同し,実際に海洋保護区をつくるに至った経緯を紹介します.すばらしいアイデアも実現しなければ意味がありません.また,地域の人々の協力がなければ,海洋保護区は実現できません.そこで,海洋保護区というアイデアを漁業者に納得してもらった経緯,実際に海洋保護区をつくることの大変な作業,問題が発生した場合の改良点など,研究者が科学的な調査を行うだけでなく,多くの人とコミュニケーションを取る必要性を紹介します.このような,海の生き物の保全における科学と社会活動の融合は,2016 年7 月にハワイで開催された第13 回国際サンゴ礁学会のメインテーマが“Bridging Science to Policy(科学から政策への橋渡し)” であったことからも,近年の重要な課題となっています.
 この本は,海の生き物や魚の暮らしぶりに興味のある方々はもちろんのこと,陸や海を問わず,また魚に限らず,生物の生態や保全に興味のある方々にも読んでもらえればうれしく思います.また,研究者と漁業者の協力を紹介することは,さまざまな立場の人々の関わりあいを研究対象とする社会学の面からも,良い事例を提供していると思います.したがって,生物を守り育てるために取り組んだ社会学的な研究事例として読んでいただければ,一層うれしく思います.
 (後略)

                                                                  著者を代表して
                                                                      名波 敦

第1章 産卵集群と海洋保護区(名波 敦)/第2章 ナミハタってどんな魚?(太田 格)/第3章 漁業データからみたナミハタの産卵集群(太田 格)/第4章 ナミハタの資源量と将来-保護区の必要性を検証する(太田 格)/第5章 海洋保護区になったナミハタの産卵場(名波 敦)/第6章 どこから産卵場に集まってくる?(名波 敦)/第7章 何日間、産卵場を保護する?(河端雄毅)/第8章 本当に産卵している?(名波 敦)/第9章 産卵した後どこへ行く?(河端雄毅・名波 敦)/第10章 海人とともに歩んだ道のり(秋田雄一)/第11章 海洋保護区をめぐる順応的管理(秋田雄一)

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