新刊

食品のコクとは何か

おいしさを引き出すコクの科学

食品のコクとは何か

食品の「おいしさ」を決定する要因のひとつであるコク。その定義と生成メカニズムを解き明かし、新たな食品開発への活用を探る。

著者 西村 敏英
黒田 素央
ジャンル 食品学
食品学 > 食品化学・食品加工・食品工学
出版年月日 2021/07/10
ISBN 9784769916703
判型・ページ数 A5・256ページ
定価 本体4,000円+税
在庫 在庫あり

この本に関するお問い合わせ・感想

「コク」は食品のおいしさを決める要因の一つである。本書はその定義とメカニズムを解き明かすとともに、味、香り、食感の刺激となる食品成分や構造に関する科学的知見、味と香りの感覚受容に関する生体側の仕組み、おいしさに関わる心理学の役割、食品の官能特性の物理的な測定方法など、コクのあるとされる食品を取り上げ、コクのおいしさを関連づけて解説した。「コク」を活かした新たな食品開発への活用を探る。

【食品のコクとは何か 正誤表 】
・本書の記述に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。
以下の正誤表をご確認のうえ、ご利用いただきますようお願いいたします。

「食品のコクとは何か」正誤表(PDF)


はじめに

  食品のパッケージを見ると,多くの食品に「コク」という言葉が使用されている.最近の食品では,カレー,シチュー,デミグラソース,カップラーメン,キムチ,味噌,コーヒー,ビール,ソーセージなどのパッケージに使用されている.これらを購入する多くの人達は,「コク」という言葉から,「濃い」,「深み」,「おいしさ」などを連想できるが,それぞれの食品に使用されている「コク」がどのような味わいを表現しているかを答えることができないと思われる.それは,これまで使用されてきた「コク」という表現に,きちんとした定義がされていなかったからである.「コク」は,中国の「酷」や「濃く」を語源としており,おいしさを決める1つの要因ではあるが,曖昧に使用されてきた.特に,「コク」は「おいしさ」と同義語として使用している場合が多いが,決して同義語ではない.「コク」は,味,香り,食感と同じように強弱があり,客観的評価ができるものであると考えた.
 編者らは,2011 年から「日本栄養・食糧学会」,「日本食品科学工学会」などで「コク」に関するシンポジウムを開催し,「コク」を定義することをスタートさせた.2016 年には,「コク研究会」を立ち上げ,毎年,コクに関するテーマでシンポジウムを開催している.シンポジウムでは,研究会で定義した「コク」を議論すると同時に,正しく使用していただけるように情報交換を行っている.また,現在,日本でしか使用されていない「コク」を海外にも発信している.2016 年に第1 回国際シンポジウム「Characteristics and action mechanism of substances involved in ‘koku’ attribute in food palatability」,2018 年には,第2 回のコクに関する国際シンポジウムを開催した.2019 年には,上記の国際シンポジウムのシンポジストによる英文書籍『Koku in Food Science and Physiology-Recent Research on Key Concept in Palatability』(T.Nishimura and M. Kuroda, Editors)をSpringer 社から発刊した.しかし,「コク」に関する日本語の専門書は,これまで存在しなかった.
 今回発刊する『食品のコクとは何か―おいしさを引き出すコクの科学』は,「コク」に関する初めての専門書であり,多くの人達に「コクの定義」を知っていただき,正しく使っていただくためのバイブルになることを期待している.第1章「食品のコクとその生成メカニズム」では,コクが「複雑さ」,「広がり」,「持続性」の3 要素(基本コク)からなることや,それぞれの生成メカニズムを解説している.第2 章「食品のおいしさとコクの発現に関わる感覚刺激」では,コクを形成する味,香り,食感の刺激となる食品成分や構造に関する食品の科学的知見を解説している.第3 章「食品のコクの感覚刺激を感じる仕組み」では,コクを感じる生体側のメカニズムに関して,味と香りの感覚受容に関する最新の研究内容を解説している.第4 章「おいしさの心理学」では,おいしさの科学の中での心理学が多感覚知覚である「コク」に関わっている役割を解説している.第5 章「食品のコクに関連する官能特性の測定方法」では,コクの客観的測定に繋がる官能評価,味覚センサ,嗅覚センサに関する内容を解説している.第6 章「各種食品のおいしさとコク」では,食品の中でも,コクがある食品として,肉・肉製品,ブイヨン,カレー,水産食品,チーズ,味噌,ビール,ワインを取り上げ,これまで明確となっていなかったこれらの食品のコクについて,おいしさと関連付けた内容を解説している.第7 章「コクを活かしたおいしい食品の開発と差別化」では,これまでの食品や新しく開発する食品に,「コク」をどのように活かしていくかを解説している.また,各章には,コラム欄を設け,各項目と関連した内容やさらに詳しい情報を掲載している.
 「コク」は,食品のおいしさを表現する上で非常に便利な言葉であり,これからもっと多くの食品に使用されることが予想される.その中で,食品開発や食品研究に携わる人達には,「コク」を正しく表現していただきたいと願っている.また,製造する食品のおいしさの特徴を「コク」の客観的表示することで,差別化することも可能になる.さらに,常に,おいしい食品を食べたいと思っている一般の人達も「コク」を正しく理解しておく必要があると考える.本書は,これらの多くの人達の手助けとなる専門書として企画されたものである.有効に活用していただけると幸いである.今後もできる限り,適時に最新の情報を取入れていく予定であるので,多くの諸賢のご意見をお願いする.

 2021 年6 月
西村敏英・黒田素央

第1 章 食品のコクとその生成メカニズム(西村敏英)
1.コクの定義
 1.1.食品のおいしさ 
 1.2.「コク」と「おいしさ」は同義語ではない
 1.3.コクの定義
2.コクの3 要素
 2.1.複雑さ(深み)
 2.2.広がり
 2.3.持続性
 2.4.食品によってコクの要素に適切な強さがある
3.コクの各要素の形成・増強メカニズムと寄与物質
 3.1.複雑さの形成・増強メカニズムと寄与物質 
 3.2.広がりの増強メカニズムと寄与物質 
 3.3.持続性の増強メカニズムと寄与物質
4.コクとコク味は,全く違う言葉
 4.1.コクとコク味の違い
 4.2.コク味物質とコク増強効果
5.コクの要素と寄与成分を活かした食品開発
 5.1.コク増強物質の添加による食品開発 
 5.2.食材の処理条件を変えることによるコクの各要素の制御
 5.3.コクの強い食材を組み合わせた食品開発
6.まとめ
 コラム 「コクの持続性」と「キレ」は,相いれないのか?(西村敏英)

第2章 食品のおいしさとコクの発現に関わる感覚刺激
1.食品の呈味成分と刺激(黒田素央)
 1.1.はじめに
 1.2.基本味物質 
 1.3.広義の味(辛み,渋み)に寄与する成分
 1.4.味覚を修飾する物質
 1.5.おわりに
2.食品の香気成分と刺激(黒林淑子)
 2.1.はじめに
 2.2.食品の香気成分 
 2.3.コクに対する匂いの関与 
 2.4.コクの増強に寄与する香気成分
 2.5.おわりに
3.食品のとろみと刺激(大越ひろ)
 3.1.はじめに
 3.2.食品のとろみとは 
 3.3.食品のとろみを感じるからだの仕組み 
 3.4.食品のとろみとずり速度の関係 
 3.5.食品のとろみとコクの関係
 コラム 「うま味」と「旨み」の間違った使い方(西村敏英) 

第3 章 食品のコクの感覚刺激を感じる仕組み(日下部裕子)
1.味を感じるメカニズム(日下部裕子)
 1.1.はじめに
 1.2.「味」の定義
 1.3.味を受容する器官 
 1.4.味を受容する分子
 1.5.受容体構造と味物質の特性の関係 
 1.6.味細胞における受容体の局在と味神経による味の伝達 
 1.7.味を増幅する仕組み
 1.8.おわりに
2.香りを感じるメカニズム(悪原成見・東原和成)
 2.1.匂いと味
 2.2.匂い物質
 2.3.匂いを感じる仕組み 
 2.4.OR の遺伝型と匂い感覚
 2.5.おわりに
 コラム コク味物質の受容体は存在するのか?(日下部裕子)
 コラム OR 遺伝子クラスターとレパートリー~長い鼻は伊達じゃないゾウ~(悪原成見)

第4章 おいしさの心理学(和田有史)
1.はじめに
2.食嗜好の先天性と後天性
3.感覚強度や嗜好を左右する心理的要因
4.多感覚知覚
 コラム おいしさの評価基準は,食習慣などで作られる(西村敏英)

第5章 食品のコクに関連する官能特性の測定方法
1.官能評価(笠松千夏)
 1.1.官能評価の定義
 1.2.評価者(assessor)の選定,訓練 
 1.3.官能評価の種類―識別試験と記述分析
 1.4.コクの官能評価
2.センサを用いたコクの要素の測定
 2.1.味覚センサでキレやコクの味の質を見る(池崎秀和)
 2.2.嗅覚センサの仕組みと応用(喜多純一) 
 2.3.とろみの機器計測(三浦 靖)
 コラム 新しい食品開発に役立つ味覚センサ(池崎秀和)
 コラム 食品のおいしさを分析機器でどこまで測れるか?(西村敏英)

第6章 各種食品のおいしさとコク
1.食肉・食肉製品のコクとおいしさ
 1.1.はじめに
 1.2.食肉のおいしさとコク 
 1.3.食肉製品のおいしさとコク
2.ブイヨンのおいしさとコク(中田淑一・二宮くみ子)
 2.1.はじめに
 2.2.ブイヨンを作る前に考えるべきこと 
 2.3.材料の選別の仕方-基本分量をどのように調整するのか 
 2.4.下処理について 
 2.5.鍋の選択,食材と水のバランスおよび加熱調理 
 2.6.野菜の投入から仕上がりまで 
 2.7.加熱終了の見極め(仕上がったブイヨンの味わいとコクの関係) 
 2.8.牛ブイヨン調理工程における遊離アミノ酸,ペプチドなどの分析 
 2.9.鹿ブイヨンと鹿コンソメ
 2.10.だしづくりのポイント
3.カレーのおいしさとコク(川波克明)
 3.1.カレーの「コク」について
 3.2.消費者視点での「コク」 
 3.3.製品開発者視点での「コク」 
 3.4.カレーの「コク」の可能性
4.水産食品のおいしさとコク(黒田素央)
 4.1.はじめに
 4.2.カニのコクに寄与する成分群 
 4.3.ホタテガイのコクに寄与する成分群 
 4.4.メバチマグロのコクに対する脂質の影響 
 4.5.魚醤のコクに寄与する呈味成分群
 4.6.おわりに
5.チーズのおいしさとコク
 5.1.はじめに
 5.2.チーズ風味に関与する成分
 5.3.コク 
 5.4.長期熟成ゴーダチーズの解析
 5.5.まとめ
6.味噌のおいしさとコク(小笠原正志)
 6.1.はじめに
 6.2.味噌の風味に関与する成分 
 6.3.コク 
 6.4.信州味噌の解析
 6.5.まとめ
7.ビールのおいしさとコク(金田弘挙・荒木茂樹)
 7.1.ビールのコクとは
 7.2.コクセンサの開発 
 7.3.コクに及ぼす味の影響
 7.4.コクに及ぼす香りの影響
8.ワインのおいしさとコク(後藤奈美)
 8.1.はじめに
 8.2.赤ワインのボディ感 
 8.3.白ワインのボディ感
 コラム 鹿ブイヨンと鹿コンソメの調理(中田淑一・二宮くみ子)
 コラム 「味」の間違った使い方(西村敏英)

第7章 コクを活かしたおいしい食品の開発と差別化(西村敏英)
1.コクの要素に寄与する食品成分は,食品の種類によって異なる
2.コクの要素における客観的な指標の作成と表示
3.食品開発におけるコクの上手な使い方
 コラム 外国人はコクをどう評価するか?(黒田素央)

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