新刊

栽培漁業の変遷と技術開発

その成果と展望

栽培漁業の変遷と技術開発

世界初の栽培漁業が誕生してから60年。親養成、餌、種苗、放流効果調査を軸に、各論では生物ごとの具体的な技術まで言及した指南書

著者 有瀧 真人
虫明 敬一
ジャンル 水産学 > 増養殖
出版年月日 2021/09/01
ISBN 9784769916710
判型・ページ数 B5・220ページ
定価 本体3,800円+税
在庫 在庫あり

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1961年に世界初の「栽培漁業」という言葉が誕生してから60年。これまでに得られた知見と技術を整理し、栽培漁業を含む増養殖分野の諸先輩が構築された幾多の成果を継承しつつ、筆者自らの経験と実績に基づきまとめる。親養成、餌料培養、種苗生産、放流効果調査と4部に分け、さらに各論で生物ごとの具体的な技術に話を展開。


はじめに

 1961(昭和36)年に世界初の「栽培漁業」という斬新な沿岸漁業振興策が産声を上げて以来,60年の歳月が流れた.この壮大な水産資源増殖構想は,わが国沿岸の有用水産資源を直接的に回復または増加させる技術として,さらに,水産資源の自律的な回復を後押しするための海の再生技術として,関係する様々な分野の研究者,技術者,そして行政部局の努力のもと,日本全国で技術開発が推進されてきた.本書の刊行は,60 年前の黎明期の発想に思いを馳せるとともに,これまでの栽培漁業の歩みを振り返る意味で,得られた知見と技術を整理しようと企画されたものである.栽培漁業に関する技術開発成果は,温故知新の精神で利用し続けないと「枯れてしまう」危険性をはらんでいる.政策としての栽培漁業が成熟期を迎えている現在,これまでに構築された技術は一旦途絶えてしまうと,復元するのに大きな労力と長い時間を要することが明らかである.本企画に賛同した筆者らは,栽培漁業技術開発に長きにわたり携わってきた直接の担当者として,今,まさにこのタイミングで技術をしっかり後世に継承していく必要性を強く感じている.
 本書は,栽培漁業を含む増養殖分野の諸先輩が構築された幾多の成果を継承しつつ,筆者自らの経験と実績に基づいて書き起こされたが,現役世代が多いため,どちらかといえば最近の知見や事例が多いことは否めない.しかし,諸先輩から直接指導を受けつつ苦労を重ねた分,その行間には多くの苦難の末に発見・発明した技術開発の「魂」が練り込まれている.本書が,現在,栽培漁業の最前線で日々活躍されている方々のみならず,これから水産学を本格的に学ぼうとする学生諸氏,異国の地や周囲に相談できない状況下の技術者の方々には手引書として,一歩でも先へ踏み出す灯火になることを願っている.また,飼育担当者が実際の飼育現場で目にする魚介類の発育に伴う形態や生態の変化,生理的な特性の情報は,通常見ることのできない様々な現象が詰まっている.リアルな生物学の書籍として,一般の読者にも手にとっていただければ望外の喜びである.
 稿を起こすに当たっては,学生諸氏や異なる専門分野の読者にも理解していただけるよう,本文はできるだけ平易な表現で記述することを心がけ,重要なポイントや主要な用語(本文中の太字)には巻末に用語解説を加えた.本書はI ~ V 部に分けて栽培漁業を記した.I 部ではまず栽培漁業とは何か?に触れた後に,その成り立ちから現在までを俯瞰し,歴史を振り返ることで社会的,行政的な変遷を取りまとめた.II ~ V 部では,栽培漁業の作業工程を現場担当者にも簡便に利用しやすいよう総論と各論の2つの章に分け,それぞれの研究・技術開発成果を次のように著した.II 部(親魚養成と良質卵の確保)では,健全な親を養成する技術や成熟・産卵の誘導方法について解説した.III 部(餌料培養)では,仔稚魚や幼生を飼育するための生物餌料の培養や栄養強化技術等を述べた.IV 部(種苗生産)では,種苗を量産する技術に関して「初期生活史の再現」をキーワードに課題と検討手法を提示した.そして,V 部(放流効果の把握)では,栽培漁業の最終工程である放流効果調査に関して,体系化された全体の技術を押さえた上で,目的ごとの調査事例や放流によるリスクの考え方および管理手法を紹介した.また,本文だけでは十分に書き切れない技術開発に取り組む心構えやブレイクスルーをもたらした契機を14 のコラムとして掲載した.技術開発現場ではどのような問題に直面し,ブレイクスルーを経て技術を体得しているのかなど,生の体験談をのぞく窓として楽しんでいただければ幸いである.(後略)

編者

Ⅰ.栽培漁業[1章 栽培漁業:増殖と養殖の違い、栽培漁業の着眼点、栽培漁業を構成する要素(作業工程)、作業工程のフィードバック管理、栽培漁業は実践学門の集大成/2章 栽培漁業の歴史:なぜ栽培漁業が必要となったのか、種苗生産のブレイクスルー、都道府県による栽培漁業の推進、日本栽培漁業協会の発足、日栽協(国営栽培漁業センター)と都道府県の役割分担、栽培漁業の転換期]
Ⅱ.親魚養成と良質卵の確保[1章 総論:はじめに、現状、残された課題と今後の方向性/2章 各論:魚類【アカアマダイ、クロソイ、クロマグロ、シマアジ、トラフグ、ニシン、ヒラメ、ブリ、ホシガレイ、マツカワ】、甲殻類【イセエビ、ガザミ、クルマエビ、冷水性甲殻類(ケガニ、ズワイガニ、ハナサキガニ)】、頭足類【コブシメ、マダコ】]
Ⅲ.餌料培養[1章 総論:餌料培養の歴史、現状と課題、今後の方向性/2章 各論:ワムシ/植物プランクトン]
Ⅳ.種苗生産[1章 総論:種苗生産の考えかた、飼育環境/2章 各論:魚類【クロソイ、クロマグロ、サワラ、シマアジ、トラフグ、ニシン、ハタ類、ヒラメ、ブリ、ホシガレイ、マツカワ】、甲殻類【イセエビ、ガザミ類、クルマエビ、ケガニ、ズワイガニ、ハナサキガニ】、頭足類【マダコ】]
Ⅴ.放流効果の把握[1章 総論:はじめに、調査目的と標識技術、輸送の技術、放流の技術/2章 各論:定性調査、定量調査、人工種苗放流のリスクとその管理]

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